目次
1.遺贈とは
遺贈とは、遺言によって、受遺者(法人又は自然人)に対し、遺言者の財産を無償で与えることです。不動産などの所有権や債権のほか、使用収益権や債務の免除なども遺贈の対象となります。
1-1.遺贈の種類
遺贈には、記載内容によって次のような種類があります。
1-1-1.包括遺贈
包括遺贈とは、遺言者が財産の全部又は一部を、一定の割合を示して遺贈することをいいます。例えば、次のような遺言です。
●長男に包括遺贈する場合
私は、私の有する一切の財産を、長男○○(昭和○年○月○日生)に包括して遺贈する。
●複数の受遺者に対して割合的に包括遺贈する場合
私は、私の有する一切の財産を、長男○○(昭和○年○月○日生)2分の1、孫○○(平成○年○月○日生)4分の1、孫○○(平成○年○月○日生)4分の1の割合で包括して遺贈する。
包括遺贈を受けた者は、相続人と同一の権利義務を有します。したがって、遺言者に借金などの負債があれば引き継ぐことになるため、注意が必要です。また、包括遺贈を放棄するためには、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をする必要があり、放棄の期間は「知ったときから3か月以内」と定められています。
1-1-2.特定遺贈
特定遺贈とは、遺言者が特定の財産を遺贈することをいいます。例えば、次のような遺言です。
●内縁の妻に建物賃借権を遺贈する場合
私は、私の有する次の建物の賃借権を、内縁の妻○○(昭和○年○月○日生)に遺贈する。
建物の表示
所 在 ○○市○○町○○番地
家屋番号 ○番
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき平家建
床 面 積 ○○.○○平方メートル
(私と賃貸人○○との間の平成○年○月○日付建物賃貸借契約に基づく賃借権
●土地を孫に遺贈する場合
私は、私の所有する次の土地を、孫○○(平成○年○月○日生)に遺贈する。
土地の表示
所 在 ○○市○○
地 番 ○番
地 目 宅地
地 積 ○○.○○平方メートル
包括遺贈と異なり、遺贈を承認したとしても、遺言者の負債を引き継ぐことはありません。また、特定遺贈を放棄する場合は、包括遺贈と異なり、遺言執行者又は遺贈義務者(遺言者の相続人など)に対して意思表示をすることで足ります。
1-1-3.負担付遺贈
負担付遺贈とは、遺言者が受遺者に対して一定の行為を負担させる内容の遺贈のことをいいます。負担させる内容は、遺贈される財産とは関係がなくても構いません。また、受遺者の一定の行為によって利益を受ける人は限定されません。
1-2.遺贈と不動産登記
不動産の遺贈を受けた場合、その登記をしないと第三者に自己の権利を主張することができません。例えば、遺贈を受けたものの、登記をしない間に不動産の名義が第三者に移転していた場合、当該不動産の権利を取得することはできません。
一方、いわゆる「相続させる」旨の遺言によって、特定の不動産を相続人が相続した場合は、登記をしなくても第三者に自己の権利を主張することができます。
2.死因贈与とは
死因贈与とは、贈与者の死亡によって受贈者に対する贈与の効力が生じる契約のことをいいます。簡単にいうと、「死んだらあげる」、という約束のことです。例えば、次のような内容です。
死因贈与契約書
贈与者○○と受贈者○○は、本日、次のとおり死因贈与契約を締結する。
第1条 贈与者○○は受贈者○○に対し、後記土地及び建物(以下「本件物件」という。)を、贈与者○○の死亡により効力を生ずるものとして贈与することを約し、受贈者○○はこれを受諾した。
第2条 贈与者○○は受贈者○○に対し、本契約締結後直ちに、本件物件につき贈与者○○の死亡を始期とする始期付所有権移転仮登記手続を行う。
2 前項に定める登記手続に要する費用は受贈者○○の負担とする。
第3条 贈与者○○の死亡以前に受贈者○○が死亡した場合は、本契約に基づく贈与の効力は生じないものとする。
以上
本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、贈与者○○及び受贈者○○が署名押印の上、各自その1通を所持する。
平成○○年○○月○○日
贈与者
住 所
氏 名 ㊞
受贈者
住 所
氏 名 ㊞
物 件 目 録
1 土 地
所 在 ○○市○○町○丁目
地 番 ○○番
地 目 宅地
地 積 ○○.○○平方メートル
2 建 物
所 在 ○○市○○町○丁目○○番地
家屋番号 ○○番
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床 面 積 1階 ○○.○○平方メートル
2階 ○○.○○平方メートル
3.遺贈と死因贈与の違い
遺贈と死因贈与は、死亡によって財産が無償で移転する点においては、似ています。そのため、死因贈与は「その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」(民法554条)とされています。
しかし、遺贈と死因贈与は、次の点で異なります。
3-1.単独行為か契約か
遺贈は、遺言者の一方的な意思表示で行うことのできる単独行為であるのに対し、死因贈与は贈与者と受遺者の合意によって成立する契約です。つまり、遺贈はもらう人の承諾なくして成立するのに対し、死因贈与はもらう人の承諾がないと効力を生じません。
違う言い方をすれば、遺贈は誰にも知らせずに行うことが可能ですが、死因贈与は財産を渡す人に内容を知らせる必要があります。
3-2.作成する方法が厳格か否か
遺贈は遺言によって行うため、遺言の厳格な様式(書面で作成する等)にしたがって行う必要があります。一方、死因贈与は契約であるため、口頭でも契約は成立します。ただし、実務上は後日の紛争を避けるため、書面で作成します。
3-3.未成年者が単独でできるか
遺贈は、満15歳以上になれば、単独で行うことが可能です(民法961条)。一方、死因贈与は契約であるため、未成年者は原則として法定代理人の同意を得て行うか、法定代理人が代わりに行う必要があります。
3-4.撤回できない場合があるか否か
遺贈は、遺言を書き直したりする方法で、いつでも自由に撤回することが可能です。一方、死因贈与も原則として撤回は可能ですが、負担付死因贈与の場合は撤回が制限されます。
4.遺贈の注意点
遺贈の注意点は、以下のとおりです。
4-1.受遺者は、遺言者が死亡した時点で生きている必要がある
遺贈は、遺言者が死亡した時点で、受遺者が生きている必要があります。受遺者が遺贈者の死亡時点で死亡していた場合(同時死亡も含みます)は、遺贈は無効となってしまいます。
4-2.割合的包括遺贈の場合、受遺者は遺産分割協議の当事者となる
例えば、「ABCの3名に3分の1ずつ遺贈する」という遺贈をした場合で、Cが法定相続人以外の第三者だった場合、Cは本来の相続人ではないものの、遺産分割協議の当事者となります。
5.死因贈与の注意点
相続人に対して不動産を遺す場合、死因贈与で行うと相続登記の登録免許税(印紙代)が5倍(固定資産評価額の0.4%が2%に)となり、不動産取得税も課税されてしまいます。なお、遺す相手が相続人以外の場合は、違いはありません。