遺族年金は、被保険者に万一のことがあった場合に、残された遺族の生活の糧となる年金です。
遺族年金の受給資格や年金額、受給するための手続や税金について知っておくことで、遺族は生活の見通しを立てることができます。また、大切な家族が、自分が亡くなった場合に、公的年金によってどの程度の保障を得られるのかを知っておくことで、万が一に備えることができます。
以下では、名古屋の中部法律事務所の弁護士が、遺族年金について知っておくべきことを解説します。
目次
1.遺族年金とは
遺族年金とは、国民年金または厚生年金保険の被保険者(被保険者であった場合を含む)が死亡したときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受給できる公的年金のことをいいます。
2.遺族年金の種類
遺族年金には、①遺族基礎年金と、②遺族厚生年金があります。亡くなられた方の年金の納付状況などによって、そのいずれかまたは両方の年金が支給されます。
2-1.遺族基礎年金
遺族基礎年金は、国民年金の被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある方が死亡したときにもらえる年金です。
ただし、死亡した方について、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む。)が加入期間の3分の2以上あることが必要とされています。
2-1-1.受給資格
遺族基礎年金を受給できるのは、死亡した方によって生計を維持されていた、①子のある配偶者(夫または妻)、または②子です。配偶者の年齢は問いませんが、子のいない配偶者(夫または妻)は受給資格がありません。
2-1-1-1.「生計を維持されていた」とは
「生計を維持されていた」とは、死亡した方の死亡時点において、生計が同一(同居していれば、原則として生計は同一と認められます)で、加給年金額等対象者について前年の年収が850万円未満であること、または所得が655万5000円未満である場合をいいます。別居の場合でも、仕送りをしていたり、健康保険の扶養家族に入っている等の事情があれば認められることもあります。
2-1-1-2.子のある配偶者(夫または妻)とは
子のある配偶者(夫または妻)とは、死亡した方の法律上の子と生計を同一にしている必要があります。配偶者の年齢は問いませんが、18歳未満の子がいない配偶者は受給資格がありません。
2-1-1-2-1.内縁の夫又は妻
なお、上記の子のある配偶者には、事実上婚姻関係と同様の状態にある内縁の妻又は夫も含まれます。
ただし、内縁の妻又は夫が遺族基礎年金を受給するためには、次の要件を満たす必要があります。①と②の要件は、法律上の配偶者と同様です。
①死亡した内縁の配偶者によって、生計を維持されていたこと(生計維持要件)
生計維持の具体的な要件は、前述のとおりです。
②子がいること
子の具体的な要件は、前述のとおりです。
③内縁関係(事実上の婚姻関係)にあったこと
ここで内縁関係とは、社会通念上夫婦同様の共同生活を営み、婚姻意思を有しているものの、婚姻届を出していないために、法律上の配偶者とは認められない妻又は夫のことをいいます。
内縁の妻又は夫が、遺族基礎年金を受給しようとする場合、内縁関係にあったことの証明をする必要があります。内縁関係にあったことの証明には、一般的には次のような書類が必要です。
・健康保険の被扶養者になっている場合→健康保険被保険者証の写し
・会社の給料計算上、扶養手当の対象となっている場合→給与簿又は賃金台帳の写し
・他の制度で遺族給付の対象となっている場合→他の制度の遺族年金証書等の写し
・1年以内に挙式、披露宴等が行われている場合→結婚式場等の証明書又は挙式、披露宴等の実施を証する書類
・葬儀の喪主となっている場合→葬儀を主催したことを証する書類(会葬御礼の写等)
・その他内縁関係の事実を証する書類(連名の郵便物、公共料金の領収証、生命保険の保険証書、内縁の夫又は妻の未払いの税を死亡後に支払った領収証、賃貸借契約書の写し等)
2-1-1-2-2.重婚的内縁関係の場合
重婚的内縁関係とは、法律上の配偶者と事実上の配偶者(内縁の妻又は夫)が併存している状態のことをいいます。現在は内縁の妻又は夫と夫婦同然の生活をしているものの、前夫(前妻)と戸籍上は離婚していないようなケースです。
重婚的内縁関係の場合、内縁関係にあったことが認められたとしても、遺族基礎年金を受給できるのは、法律上の配偶者なのか、事実上の配偶者(内縁の妻又は夫)なのか、という問題が生じます。
この場合、原則として、法律上の配偶者が遺族基礎年金の受給者となります。
ただし、例外的に、法律上の婚姻関係が実態を失って形骸化し、事実上の離婚状態となっている場合には、法律上の配偶者は「配偶者」とは認められず、事実上の配偶者(内縁の妻又は夫)が遺族基礎年金の受給者となります。
2-1-1-3.子とは
ここでいう子とは、①18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子、または②20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子のことをいいます。ただし、現に婚姻をしていないことが必要です。
2-1-2.いくらもらえるか
遺族基礎年金の年金額は、年額779,300円+子の加算分となります。
子の加算分は、第1子及び第2子は、それぞれ224,300円、第3子以降はそれぞれ74,800円加算となります。なお、以下の金額は平成30年4月分からの金額で計算していますが、金額は年度により変更となる場合もあるため、最新の金額は年金事務所のHPなどで確認するとよいでしょう。
配偶者がもらう場合
例えば、配偶者(夫または妻)と上記の条件を満たす子が2名いる場合、779,300円+224,300円+224,300円=1,227,900円が遺族基礎年金の合計額(年額)となります。
子がもらう場合
子が遺族基礎年金を受給する場合の加算は第2子以降について行います。その場合の子1人あたりの年金額は、年金額合計を子の頭数で案分した額となります。
例えば、子が受給者となる場合で、子が2名いる場合、779,300円+224,300(第2子加算)=1,003,600円が遺族基礎年金の合計額(年額)となり、子が2名いることから、子一人あたりの年金額は501,800円(年額)となります。
2-2.遺族厚生年金
遺族厚生年金は、厚生年金の被保険者が死亡した場合等に、その遺族が受け取ることのできる年金です。具体的には、次のような場合です。
①厚生年金の被保険者が死亡したとき、または被保険者期間中の傷病がもとで初診の日から5年以内に死亡したとき。
※ただし、死亡した方について、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む。)が加入期間の3分の2以上あることが必要とされています。
②老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき
③1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる者が死亡したとき
2-2-1.受給資格
遺族厚生年金は、死亡した方によって生計を維持されていた次の方が対象となります。先順位の方が受給権を取得する場合は、後順位の方は受給することはできません。なお、「生計を維持されていた」と認められる状況、内縁の妻又は夫が受給できるための要件等については、遺族基礎年金と同様です。
①妻
※30歳未満の子のない妻は、5年間の有期給付となります
②子や孫
※18歳到達年度の年度末を経過していない方、または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の方、かつ現に婚姻していない方が対象となります
③55歳以上の夫、55歳以上の父母、55歳以上の祖父母(支給開始は60歳からとなります)※ただし、夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も併せて受給できます
※子のある配偶者及び子は、遺族基礎年金も併せて受給することができます。
2-2-2.いくらもらえるか
遺族厚生年金の支給額は、次の①の式で計算されます(報酬比例部分)。ただし、①の式で計算した金額が、②の式の金額よりも少ない場合は、②の式で計算した金額が年金額となります。
①報酬比例部分の年金額
(平均標準報酬月額×7.125÷1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数+平均標準報酬額×5.481÷1000×平成15年4月以後の被保険者期間の月数)×3/4
②従前額保証
(平均標準報酬月額×7.5÷1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数+平均標準報酬額×5.769÷1000×平成15年4月以後の被保険者期間の月数)×0.999(※生年月日が昭和13年4月2日以降の場合は0.997)×3/4
もっとも、正確な年金額を上記の式で計算するのは一般の方には困難であるため、大まかには、死亡した方がもらえるはずであった老齢厚生年金の4分の3相当額とイメージするとよいでしょう。
加算される場合
また、次の一定の場合には、遺族厚生年金に一定額が加算されます。
中高齢の加算
夫が死亡したときに、40歳以上で子のいない妻(夫の死亡後40歳に達した当時、子がいた妻も含みます)が受ける遺族厚生年金には、妻が40歳から65歳になるまでの間、中高齢の寡婦加算として、遺族厚生年金に584,500円(年額)が加算されます。
ただし、妻が65歳になると妻自身の老齢基礎年金を受けられるため、中高齢の寡婦加算は受けられなくなります。
経過的寡婦加算
前述のとおり、妻が65歳になると妻自身の老齢基礎年金を受けられるため、中高齢の寡婦加算は受けられなくなります。この場合に、老齢基礎年金の額が中高齢寡婦加算の額よりも少ないときは、妻が受けられる年金額が減ってしまいます。そこで、中高齢寡婦加算に代わって加算されるのが経過的寡婦加算です。
経過的寡婦加算を受けるための要件は、次のとおりです。
①妻が中高齢寡婦加算の受給要件を満たしていること
②妻の生年月日が、1956年4月1日以前であること
経過的寡婦加算の受給要件を満たした場合、中高齢の寡婦加算の終了に合わせて、経過的寡婦加算を受給することができます。その金額は、老齢基礎年金と合わせて中高齢の寡婦加算額と同額となるよう設定されており、原則として死亡するまで受給することができます。
3.遺族への給付金
3-1.寡婦年金
寡婦年金(かふねんきん)とは、自営業者や農業・漁業者等の国民年金のみに加入していた夫が死亡したケースで、国民年金の保険料を納めた期間(免除期間を含む)が10年以上ある場合、当該夫と10年以上(死亡日が平成29年8月1日より前の場合は、25年以上)継続して婚姻関係にあり、生計を維持されていた妻に対して、60歳から65歳になるまでの間支給される年金のことをいいます。
簡単にいうと、夫が国民年金の加入者であった場合に、老齢基礎年金の受給資格を満たしているにもかかわらず、支給を受ける前に死亡したケースにおいて、保険料が掛け捨てとなることを防ぐとともに、妻自身の老齢基礎年金支給開始時までの所得保障のため設けられた年金です。
寡婦年金の年金額は、死亡した夫が受け取る予定であった老齢基礎年金額の4分の3です。
ただし、亡くなった夫が、障害基礎年金の受給権者であった場合や、老齢基礎年金を受けたことがある場合は支給されないため、注意が必要です。また、妻が繰り上げ支給の老齢基礎年金を受けている場合は、寡婦年金は支給されません。
3-2.死亡一時金
死亡一時金とは、第1号被保険者(自営業者や農業・漁業等に従事する方と、第3号被保険者ではないその配偶者)として保険料を納めた月数が36月以上ある方が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま亡くなった場合に、その方によって生計を維持されていた一定の遺族に対して給付される一時金のことをいいます。
簡単にいうと、遺族基礎年金が受けられない場合に国民年金の保険料が掛け捨てとならないよう、支給される給付金です。寡婦年金と併給はできないため、両方の受給資格がある場合はいずれかを選択します。
死亡一時金の金額は、保険料の納付月数に応じて、12万円から32万円となり、付加保険料を納めた月数が36月以上ある場合は、8,500円が加算されます。
死亡一時金は、死亡日の翌日から2年で時効にかかるため、寡婦年金の受給資格がない場合は、速やかに請求する必要があります。
4.遺族年金を受給するための手続
4-1.遺族基礎年金の場合
遺族基礎年金を受給するための手続は、以下のとおりです。
手続をする場所
原則として、住所地の市区町村役場です。
必要書類
・年金手帳
・戸籍謄本
・世帯全員の住民票
・死亡した方の住民票の除票
・年金請求者の収入が分かる資料(源泉徴収票、課税証明書等)
・子の収入が分かる資料(中学生までは不要。高校生以上は在学証明書等)
・死亡診断書の写し
・年金の受取口座の分かる通帳等
・認印
4-2.遺族厚生年金の場合
遺族厚生年金を受給するための手続は、以下のとおりです。
手続をする場所
年金事務所または年金相談センターです。
必要書類
・年金手帳
・戸籍謄本
・世帯全員の住民票
・死亡した方の住民票の除票
・年金請求者の収入が分かる資料(源泉徴収票、課税証明書等)
・子の収入が分かる資料(中学生までは不要。高校生以上は在学証明書等)
・死亡診断書の写し
・年金の受取口座の分かる通帳等
・認印
5.失権とは
失権とは、遺族年金の受給資格を失うことをいいます。
遺族基礎年金、遺族厚生年金、寡婦年金を受給している場合に、受給者が以下の事由に該当したときは、原則としてその受給資格を失います。
・受給権者が死亡したとき
・受給権者が婚姻したとき
・子・孫の18歳の年度末が終了したとき(障害等級1級、2級を除く)
・子・孫が20歳になったとき
・(寡婦年金の場合に)妻が老齢基礎年金の繰上げ支給の請求をしたとき
など
6.遺族年金と税金
老齢基礎年金や老齢厚生年金と異なり、遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)や寡婦年金には、所得税、復興所得税、相続税の税金はかかりません。これは遺族年金、寡婦年金の額がどれだけ高額であっても同様です。
遺族年金、寡婦年金のほかに、老齢基礎年金や老齢厚生年金を受給している場合は、遺族年金、寡婦年金部分だけが非課税となります。
遺族年金、寡婦年金と確定申告
遺族年金、寡婦年金は非課税であるため、確定申告は不要です。仮に遺族年金、寡婦年金以外の収入があり、当該収入について確定申告をする必要があったとしても、遺族年金、寡婦年金の収入については申告する必要はありません。