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相続の弁護士コラム
相続財産の調べ方、相続財産の評価方法

相続財産の調べ方、相続財産の評価方法

相続が開始した場合、どのような相続財産(遺産)があるのかを、速やかに把握することはとても大切です。

なぜなら、相続財産には、プラスの財産のみならず、マイナスの財産も含まれるため、相続財産の内容によっては、相続せずに相続放棄を行う方がよい場合もあるからです。そして相続放棄には、知ったときから3か月以内という期限があります。また、相続税がかかる場合、相続税の申告にも期限があります。

以下では、実際に相続財産をどのように調べればよいのか、そして相続財産の評価をどのようにするのかについて、名古屋の中部法律事務所の弁護士が解説します。

1.相続財産(遺産)の調べ方

 

相続財産は、相続人の一人だけでも調べることができる

被相続人の相続財産(遺産)は、相続人の一人から調べることができます。

例えば、相続人が10名いたとしても、そのうちの一人が、全ての相続財産の内容を調査できるということです。そうしないと、相続を承認するか放棄するかの判断や、相続税がかかる場合に適正な相続税申告ができないことになってしまいます。

相続財産を調べるにあたって必要な書類は、一般的には、①被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本、②被相続人と調査する相続人との相続関係が分かる戸籍謄本、②調査する相続人の本人確認証明書(免許証、保険証など)等となります。


相続財産になるもの


では、どのような財産、あるいは負債が相続財産となるのでしょうか。

以下は相続財産となるプラスの財産、マイナスの財産を一覧にまとめたものです。なお、相続税申告上の相続財産は、特定の相続人が受取人となる生命保険金もみなし相続財産となるなど、少し異なる部分があるため、詳しくは税理士にご相談されるとよいでしょう。

プラスの財産

マイナスの財産

・現金

・預貯金

・不動産

・株式、投資信託などの有価証券

・借地権などの不動産上の権利

・自動車

・貴金属・宝石、家具などの動産

・債権(貸金や損害賠償などの請求権)

・(被相続人が受取人の場合)生命保険金

・借金

・住宅ローン

・公租公課(滞納税金や社会保険料など)

・保証債務(被相続人が保証人となっていた場合)

・損害賠償債務(交通事故の賠償金債務等)


相続財産とはならないもの


相続財産とはならないものは、次のとおりです。

相続財産とはならないもの

・祭祀財産(仏壇、仏具、墓地や墓石など)

・(受取人が被相続人以外の)生命保険金

・未支給年金

・(受取人等明確な規定のある)死亡退職金

・葬儀の際の香典

・被相続人に属した一身専属権(使用貸借契約の借主の地位、公営住宅の利用権等)

1-1.不動産の調べ方

被相続人が所有していた不動産を確認する方法は、以下のとおりです。なお、不動産には、土地には地番、建物には家屋番号という番号が振られていますので、不動産の場所と番号を確認する必要があります。

●自宅

自宅は、郵便物や最後の住所の住民票から場所を特定します。なお、都心部では住所が住居表示になっているところが多く、その場合は当該住居表示に対応する土地の地番を、法務局や市役所で調べる必要があります。

●自宅以外の不動産

固定資産が課税されている不動産については、毎年4月から5月にかけて固定資産税の納税通知書が届くはずなので、納税通知書の記載から被相続人所有の不動産を確認することができます。

しかし、固定資産評価額が低い田舎の山林や畑など、固定資産税が非課税の不動産については、納税通知書が届かないため、調べることができません。そのような場合は、遺品の中の権利書に記載がないか調べたり、市区町村役場に名寄台帳(なよせだいちょう)の閲覧を請求したりする方法で調べるほかありません。

ただし、名寄台帳はあくまでも市区町村単位でしか分かりません。そのため、相続人の思いもよらぬ場所に、被相続人が固定資産税非課税の不動産を所有していた場合などは発見が困難となります。

1-2.預貯金の調べ方

被相続人の預貯金を調べるには、一般的には次のような方法で調べることをお勧めします。

●遺品の中に、通帳、キャッシュカード、銀行からの葉書などがないか調べる

通帳やキャッシュカードがあれば分かりやすいですが、定期預金などは満期切替などのタイミングで葉書の案内が来ることが一般的です。

●該当の銀行等の窓口で確認する

口座がありそうな銀行については、その銀行の窓口に行って、戸籍などの資料を提示の上、残高証明書(死亡日時点)や直近の取引履歴の発行を依頼します。通常、口座の有無の確認は、銀行やゆうちょ銀行の取引支店でなくても可能です。

なお、銀行は口座名義人が死亡したことを知った時点で、口座を凍結します。口座が凍結されるとは、その口座からの出金や口座振替が一切できなくなるという状態をさします。被相続人の死亡を銀行が把握していなかった場合、窓口に行った時点で口座が凍結されます。

1-3.株式や投資信託などの有価証券の調べ方

被相続人の株式や投資信託などの有価証券を調べるには、一般的には次のような方法で調べることをお勧めします。

●遺品の中に、証券会社からの通知等がないか調べる

株式を所有している場合、配当通知や株主総会の案内が送られてくることがあります。また、投資信託などを保有している場合は、年間運用報告書等が毎年送付されてきますので、それらの資料を確認します。

●被相続人の通帳の記載を確認する

株式を売買したときの売買代金や、証券会社の口座に資金を移動させた場合の履歴、配当を口座振込にしていた場合の振込履歴など、通帳の記載から多くの情報を得ることが可能です。

●証券保管振替機構に確認する

取引をしていた証券会社が不明な場合、証券保管振替機構に登録済加入者情報の開示請求をすることで、被相続人がどの証券会社で取引をしていたか把握することができます。多数の株式や投資信託を所有していたとしても、それらを取り扱っている証券会社は一つであることが多いです。

●残高証明書を発行してもらう

株式や投資信託などの有価証券は、価格変動を伴う商品であるため、取扱い証券会社が分かったら、死亡日時点の残高証明書の発行を依頼しましょう。その書類は相続税の申告が必要となった際にも使用することができます。

1-4.生命保険の調べ方

被相続人が契約していた生命保険を調べるには、一般的には次のような方法をお勧めします。

●遺品の中の関係書類を調べる

生命保険を契約すると、保険証券が手元に届きます。また、毎年保険会社から保険内容のお知らせの葉書等が届くことが多いため、それらの郵便物がないかも確認します。

その他、預貯金の履歴から、保険料の引落しがある場合もあります。また、個人事業主の場合は確定申告、会社員の場合は源泉徴収票の記載に、生命保険料の控除が計上されていれば、何かしらの保険契約があることが推測されます。

なお、弁護士に遺産分割等を依頼した場合、弁護士会照会制度によって、生命保険会社に対し、保険契約の有無を照会することが可能です。詳しくは以下のコラムをご参照ください。

1-5.借金の調べ方

被相続人に借金があるかどうかは、相続を承認するか相続放棄を検討するかの判断に大きな影響を与える部分です。

したがって、後から思わぬ借金があったことが判明した、ということにならないように、借金などの負債の調査は確実に行うようにしましょう。

借金などの負債の調査は、一般的には以下のような方法をお勧めします。

●遺品の中に、借金につながる資料やカードがないか確認する

借金をした際の契約書や、消費者金融・クレジット会社のカードの有無、通帳からの引落しや振込み履歴から、借金につながる情報を得られます。

なお、相続人から消費者金融などに連絡した場合、支払いの約束を求められることがありますが、相続放棄をする可能性もあるため、支払いの約束はしてはいけません。

●信用情報機関に照会する

遺品の中から資料が見つからない場合や、資料はあるけど現在いくらくらいの借金があるのか知りたい場合は、信用情報機関に照会することで、正確な内容を知ることができます。ただし、信用情報機関への照会で分かるのは、あくまでも信用情報機関の加盟会社のみであるため、個人的な借金やヤミ金業者からの借入れなどは調査することはできません。

信用情報機関への照会方法等具体的な手続き内容は、以下のコラムを参照ください。

2.相続財産の評価方法

相続財産が現金や預貯金のみであれば、額面金額と残高が一致するので評価の問題はありません。

しかし、不動産や株式(非上場株式)の評価は専門家にとっても難しく、遺産分割における評価方法と相続税法の評価方法・評価時点が異なる点もあります。

以下では、これらの評価に関する問題のうち、遺産分割や遺留分に限った相続財産の評価方法について解説します。

2-1.不動産の評価方法

遺産分割は、相続財産の時価によって行うのが原則です。しかし、不動産の時価は実際売却してはじめて確定するものであって、売却のタイミングや買主によって変動するものです。

全員で持分を取得して売却するような場合はともかく、一部の相続人が不動産を取得して、他の相続人が預貯金を取得するような場合、不動産の価値をどのように評価するのかが問題となります。

以下では、実務上よく行われている不動産の評価方法について解説します。

●当該不動産の最新の固定資産税評価額による方法

固定資産税評価額とは、不動産に固定資産税を課税するために、市町村が当該不動産を評価した評価額のことをいいます。この評価額は3年毎に見直されており、公示価格の70%を基準に評価されています。

固定資産税評価額は、実務上広く参照されている価格です。一般的には、前述のとおり取引価格(時価)より低く設定されていますが、不動産会社の査定の際にも参考にされる価格です。

●不動産会社の査定による方法

不動産会社は、最近の取引事例や不動産の現況などから、査定価格を算出します。複数の不動産業者に査定を依頼することで、不動産の市場価値の概要をより正確に把握することが可能です。

●当事者間の合意による方法

上記の固定資産税評価額や不動産会社の査定金額を参考に、当事者間で不動産の時価(価格)について合意できた場合は、当該価格をもとに遺産分割等を行います。

●相続人間で合意ができない場合

相続人間で不動産の評価額について合意できない場合は、不動産鑑定士による不動産鑑定を行います。遺産分割調停や審判においては、裁判所は鑑定人による評価額を採用することが通常です。

2-2.現金、預貯金の評価方法

現金や預貯金については、額面金額が時価と同じであるため、その評価方法が問題となることはありません。

2-3.株式や有価証券の評価方法

株式や有価証券の評価方法は、一般的には次のような方法をお勧めします。

●上場株式の評価方法

上場株式は、株価(時価)が証券会社等から公表されているため、評価額がいくらなのかについて問題となることはありません。ただし、株価は変動するため、いつの時点の株価を基準にするかが問題となりますが、遺産分割においては、原則として遺産分割時の株価が基準となります。

●非上場株式の評価方法

非上場株式の評価は難しい問題です。上場株式のように株価(時価)が明確ではないためです。実務上は、税理士が作成する相続税申告書記載の株価を参考にすることが多く、相続税の申告がない場合であっても、顧問税理士に株価評価を算出してもらい、その評価額を基準に遺産分割をするケースが多いといえます。

●相続人間で合意できない場合

相続人間で株式の評価について合意ができず、調停や審判となった場合は、裁判所が選ぶ鑑定士によって株価の鑑定が行われます。

3.まとめ

相続が開始した場合、相続財産の内容や金額(評価額)を速やかに把握することはとても重要です。

しかし、亡くなった人との関係が疎遠だった場合や、一部の相続人が相続財産を独占して情報を開示しない場合など、相続財産の内容がすぐには分からないケースも多いと思います。

冒頭にも記載したとおり、相続放棄や相続税の申告には一定の期限があります。本コラムを参考に、ご自身で調査されても分からない場合には、早めに当事務所弁護士にご相談ください。

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