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相続の弁護士コラム
葬儀費用は誰が負担すべきか。相続財産(遺産)から払ってもよいか。

葬儀費用は誰が負担すべきか。相続財産(遺産)から払ってもよいか。名古屋の弁護士が解説!

相続が発生したとき、まず最初にかかる大きなお金が葬儀費用です。葬儀費用は、誰がどのように負担すべきなのでしょうか。以下では、葬儀費用について、名古屋駅前の中部法律事務所の弁護士が、最新の判例を紹介しつつ解説します。

執筆者:弁護士尾中翔(弁護法人中部法律事務所春日井事務所所属)

1.葬儀費用とは

葬儀費用とは、亡くなった人の通夜、告別式、火葬に伴って必要となる費用のことをいいます。一般的には、葬儀会社やお寺等への支払いが主なものとなります。

2.葬儀費用は誰が負担すべきか

では、葬儀費用は、誰が負担すべきなのでしょうか。

葬儀費用は、相続開始後に生じた債務であり、相続財産に関する費用ともいえないため、当然に遺産から支払うことはできません。また、葬儀に関する宗教や慣習がさまざまであることから、葬儀費用を誰が負担するかについて、法律上明確な規定はありません。

一般的には、親族間の協議によって、喪主となるべき相続人が負担することが多いと思われます。しかし、葬儀費用は安くても数十万円、高額なものだと数百万円にのぼることがあります。そのため、相続人同士が遺産分割で揉めていたり、親族間の協議ができない場合に、葬儀費用を誰がどのように負担するかについて、調停や裁判で争われることがあります。

3.葬儀費用の負担者についての4つの説

葬儀費用について、これまでの調停や裁判で争われた場合に主張されてきた主な説は、次の4つです。

①喪主負担説 実質的に葬儀を主宰した者(喪主)が負担すべきとする説
②相続人負担説 相当な範囲の費用は、相続人が共同で負担すべきとする説
③相続財産負担説 遺産から支出すべきとする説
④慣習・条理説 地方又は死者の属する親族内における慣習若しくは条理によって決めるべきとする説

もっとも、葬儀の意味や内容等は多様であるため、調停や裁判においては、上記のいずれかの説で一律に決まるわけではなく、個々の事案において誰がどのように葬儀費用を負担すべきかが判断されます。

近年、葬儀費用の負担について注目すべき裁判例が出ましたので、以下で詳しく紹介します。

4.葬儀費用の負担に関する判例(名古屋高裁平成24年3月29日判決)

4-1.事案の概要

この事案は、被相続人(亡A)の兄弟Dが、

喪主として亡Aの葬儀を主宰し支出した葬儀

費用等(約183万円)について、亡Aの相続人

BCに対し、不当利得返還請求権に基づき請求

したものです。

 

4-2.判旨の引用

本判決は、次のように判示し、葬儀費用の負担について、上記①の喪主負担説に立つことを明らかにしました。

 

亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責任と計算において,同儀式を準備し,手配等して挙行した者が負担し,埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。

 なぜならば,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式を行うか否か,同儀式を行うにしても,同儀式の規模をどの程度にし,どれだけの費用をかけるかについては,もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し,実施するものであるから,同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり,他方,遺骸又は遺骨の所有権は,民法897条に従って慣習上,死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので,その管理,処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。」

4-3.解説

上記判決は、葬儀費用について喪主負担説に立つものですが、①亡くなった人が生前に自らの葬儀に関する契約を締結していない場合かつ②亡くなった人の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合、に喪主が負担すべきとしている点には注意が必要です。

すなわち、①の生前契約等がある場合には、当該契約内容にしたがって葬儀費用の負担が決まることになり、②の相続人等の合意がある場合には、合意内容にしたがって葬儀費用の負担が決まることになります。

●生前契約等がある場合

①の生前契約等がある場合とは、例えば、生前に葬儀会社と自己の葬儀内容について契約を締結し、費用を先払いするようなケースがあります。また、遺言等によって、葬儀費用の負担者を指示したり、遺産の一定額を葬儀費用として指定することも可能です。このような場合は、仮に喪主が一時的に葬儀費用を立て替えたとしても、最終的に契約や指定内容にしたがって葬儀費用の負担者が決まるものと考えられます。

●相続人等の合意がある場合

②の相続人等の合意がある場合とは、相続人等の協議によって、喪主や葬儀費用の負担者を決めた場合です。例えば、喪主は配偶者とし、葬儀費用は長男が負担する、といった合意をしたような場合です。なお、遺言等によって葬儀費用の負担者が指定されていたとしても、相続人等の協議によって指定と異なる合意をすることは可能です。

①及び②のいずれにも該当しない場合には、喪主が葬儀費用を負担すべきであり、その理由として、「追悼儀式を行うか否か,同儀式を行うにしても,同儀式の規模をどの程度にし,どれだけの費用をかけるかについては,もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し,実施するものである」ことがあげられています。

5.まとめ

葬儀をどのように行うかは、宗教や慣習の違いのみならず、人それぞれの価値観が異なるため、一概にどうすべきと言えるものではありません。そのため、親族間の関係が疎遠な場合や遺産によって葬儀費用が賄えない場合、喪主と相続人が異なる場合などは、葬儀内容や葬儀費用の負担において紛争となる可能性があります。

そのような紛争を避けるためには、生前に葬儀に関する契約を行うか、又は遺言等によって葬儀の内容や負担を定めておくことも検討するとよいでしょう。

 

●葬儀費用など、相続全般についてさらに詳しく知りたい方は、相続全般のよくあるご質問をご覧ください。

●遺産分割等をお考えの方は、名古屋の弁護士法人中部法律事務所の遺産分割サービスをご覧ください。

●葬儀費用の負担や遺産分割等について弁護士にご相談をされたい方は、名古屋の弁護士法人中部法律事務所の無料法律相談をご覧ください。

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