相続人の中に行方不明者(不在者)がいる場合、その状況に応じて、
1.不在者の財産管理人の選任申立を行う
2.失踪宣告の申立を行う
の2つの方法が考えられます。
不在者の財産管理人の選任申立は、行方不明者(不在者)が生存していることを前提にその財産管理を行うための手続です。
一方、失踪宣告は、行方不明者(不在者)が一定期間以上生死不明な場合に、法律上死亡したものとみなす手続であり、失踪宣告を受けた者について相続が開始します。
共同相続人のなかに行方不明者(不在者)がいる場合、そのままでは遺産分割協議を行うことができません。遺産分割協議は、共同相続人全員が合意して初めて成立するものであるからです。
そこでそのような場合は、行方不明者(不在者)の状況に応じて、以下の2つの方法が考えられます。
なお、いずれの場合も、行方不明者(不在者)の戸籍調査や住所調査(現地調査を含む)を実施しても行方が分からない場合にはじめて利用できる方法です。単に相続人の連絡先を知らない、疎遠で住所を知らない、といったケースは、ここでいう行方不明者にはあたりません。
1.不在者の財産管理人の選任申立
不在者の財産管理人の選任申立は、行方不明者(不在者)が生存していることが推定されるが、その所在(住所・居所)が不明で、今後も容易に戻る見込みのない場合に行う手続です。
不在者の財産管理人は、不在者の財産を管理したり必要な修繕等の保存行為を行うほか、家庭裁判所の許可を得た上で、不在者に代わって遺産分割や不動産の売却等を行うことができます。
したがって、この場合の遺産分割協議は、家庭裁判所から選任された不在者財産管理人と他の共同相続人との間で行うことになります。
なお、不在者財産管理人の選任をせずになされた遺産分割協議は、相続人全員によってなされたものではないため、無効です。
2.失踪宣告の申立
失踪宣告は、行方不明者(不在者)を、法律上死亡したものとみなす手続です。
その所在(住所・居所)が不明で、今後も容易に戻る見込みのない者が対象であることは不在者の財産管理人申立と同じですが、失踪宣告は死亡したものとみなす手続であるため、申立には以下の要件も必要となります。
①その生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)
又は
②戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が1年間明らかでないとき(危難失踪)
失踪宣告を受けた者は法律上死亡したとみなされるため、その者について相続が開始します。また、戸籍上も死亡したのと同様の処理がなされるため、その者の妻は再婚も可能となります。
死亡とみなされる時期は、上記①の普通失踪の場合は、不在者の生死が不明になってから7年間が満了したとき、上記②の危難失踪の場合は危難が去ったときに、それぞれ死亡したものとみなされます。
したがって、この場合の遺産分割協議は、上記みなし死亡の相続開始時点を基準に、その相続人等と行うことになります。
参考条文
民法
(不在者の財産の管理)
第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。
(失踪の宣告)
第三十条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
(失踪の宣告の効力)
第三十一条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。