回答
借金などの金銭債務について、遺産分割することは可能です。しかし、金銭債務は、相続開始と同時に、各相続人が法定相続割合に応じて、当然に負担することになります。
したがって、仮に遺産分割協議によって、特定の相続人が全ての財産を取得する代わりに、借金も全て負担する、という合意が成立したとしても、それはあくまで相続人間の取り決めにすぎません。そのため、債権者(借金の貸主)に対しては、法定相続割合に応じた借金の支払い義務を負うことになります。
借金の支払い義務を免れたい場合は、①家庭裁判所に対して相続放棄の申述をする、②特定の相続人が全ての債務を負担し、他の相続人は負担しないことについて、債権者の承諾を得る(免責的債務引受契約を締結する)方法が考えられます。
解説
1.金銭債務の相続
金銭債務については、遺産分割協議や遺言の内容に関わらず、各相続人が相続割合に応じて分割された債務を負担します。
例えば、夫が死亡し、借金が1000万円ある場合に、法定相続人が妻と子2名のケースでは、妻はその2分の1(500万円)、子はそれぞれ4分の1(各250万円)を、当然に負担することになります。
2.遺産分割協議で金銭債務の負担者を定める方法
遺産分割協議において、金銭債務を誰が負担するかを定めることが可能です。一般的には、相続財産を全て取得する相続人がいるような場合、当該相続人が相続債務も全て負担するケースが多いと考えられます。
ただし、この際に注意しなければならないのは、借金などのマイナスの財産については、相続人間の合意(遺産分割協議)で誰が負担するかについて合意したとしても、それはあくまでも相続人間の内輪の話であって、債権者に対して合意内容を主張することはできない点です。これは遺言によって債務の負担者が指定されている場合でも同様です。
したがって、遺産分割協議書で金銭債務を負担すると定められた相続人が、実際には相続債務を支払わなかった場合、各相続人は法定相続割合で債権者から請求を受けることになります。
3.債権者との間で金銭債務の負担者について合意する方法
遺産分割協議のタイミングで、債権者との間で金銭債務の負担者について合意した場合は、他の相続人は当該金銭債務については、債務を免れることになります。このような契約を、免責的債務引受契約(めんせきてきさいむひきうけけいやく)といいます。
4.相続放棄をする方法
家庭裁判所への相続放棄申述(申立て)は、相続人たる地位そのものを放棄する手続です。相続放棄が受理されると、法律上初めから相続人ではなかった扱いとなります。
その結果、プラスの相続財産のみならず、借金などの債務についても相続をすることはありません。
そのため、相続財産を一切受け取らない相続人は、少しでもマイナスの財産が存在する可能性があるのであれば、弁護士に相談の上、家庭裁判所に相続放棄の申述(申立て)を行うことをお勧めします。