遺産分割により瑕疵のある相続財産を取得した相続人は、他の共同相続人に対し、損害賠償の請求を行うことができます。
相続財産に瑕疵がある場合とは、その全部又は一部が他人の所有物であった場合、数量が不足していたり一部滅失していた場合、第三者の用益権や担保権などの権利制限があった場合、債権の債務者が無資力の場合、財産に隠れた瑕疵があったような場合です。
ただし、この責任は、共同相続人が実際に受け取った相続分(具体的相続分)に応じた責任であるため、相続財産を取得した割合によって負担する割合も異なります。
また、共同相続人間の遺産分割による担保責任の存続期間は、瑕疵を知ったときから1年間です。したがって、この期間内に損賠賠償請求をしなかった場合、他の共同相続人に対し、担保責任を請求することができなくなります。
1.相続財産の瑕疵
瑕疵とは、法律上の何らかの欠陥・欠点のことをいいます。相続財産に瑕疵がある場合とは、例えば次のようなケースです。
- 遺産分割により取得した財産の全部又は一部が、実は他人の所有であった
- 遺産分割により取得した財産の数量が不足していた
- 遺産分割により取得した財産の一部が滅失していた
- 遺産分割により取得した財産に、賃借権などの他人の権利による制限があった
- 遺産分割により取得した債権の債務者が、無資力(無資力とは、支払能力がないことをいいます)であった
- 遺産分割により取得した財産に、隠れた瑕疵があった(例えば、土地に土壌汚染があった、建物に白蟻の侵食被害があった、等)
このような場合、遺産分割によって瑕疵のある財産を取得した相続人が不測の損害を被ることになり、他の相続人と比較して不公平となってしまいます。
そこで民法は、共同相続人間の担保責任を認めることによって、相続人間の公平を図っています(民法911条から913条まで)。
2.共同相続人の担保責任
遺産分割により瑕疵のある相続財産を取得した共同相続人は、他の共同相続人に対し、損害賠償の請求を行うことができます。
ただし、この責任は実際に受け取った相続分(具体的相続分)に応じた責任であるため、相続財産を取得した割合によって負担する割合も異なります。
例えば、共同相続人が子4人(ABCD)で、そのうちの1人(B)が取得した土地が実際は他人が所有する土地であったため、所有権を取得できなかったとします。
相続財産の総額が2000万円で、遺産分割によりAが1000万円(相続財産の2分の1)、Bが1000万円(当該土地の価額、相続財産の2分の1)を取得していた場合(CDは何も取得せず)、BはAに対し、担保責任に基づき、500万円の損害賠償請求をすることができます。このとき、C及びDは各4分の1の法定相続分を有していますが、遺産分割による具体的相続分がないため、損害を賠償する必要はありません。
なお、共同相続人間の担保責任は、相続開始前の原因に基づく瑕疵だけでなく、相続開始後遺産分割までに生じた瑕疵も含まれます。
3.他の相続人が無資力の場合
前述のとおり、他の共同相続人に担保責任に基づく損害賠償請求ができるとしても、相手が無資力の場合、現実に賠償を受けることができません。
そのような場合、相手方が無資力のために賠償を受けることができない部分については、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて負担することになります(民法913条)。
4.担保責任の存続期間
共同相続人間の遺産分割による担保責任の存続期間は、瑕疵を知ったときから1年間です。したがって、この期間内に損賠賠償請求をしなかった場合、他の共同相続人に対し、担保責任を請求することができなくなります。
なお、担保責任を追及する旨の意思表示は、裁判上の請求である必要はありませんが、期間内に意思表示した証拠を残すため、内容証明郵便(配達証明付)によって行うことが望ましいでしょう。
5.遺産分割のやり直しの可否
遺産分割により瑕疵のある相続財産を取得した相続人は、遺産分割のやり直しを求めることができるのでしょうか。
この点、法的安定性の観点から、一旦成立した遺産分割協議は有効であり、遺産分割により取得した相続財産に瑕疵があった場合は、共同相続人間の担保責任によって金銭的に解決する見解が有力と考えられます。ただし、瑕疵のある相続財産が遺産全体に占める割合が極めて大きいような場合には、遺産分割協議自体が無効となる可能性があります。
6.遺言による担保責任の免除
共同相続人間の担保責任は、被相続人が遺言によって別段の意思を表示した場合には、適用されません(民法914条)。
参考条文
民法
(共同相続人間の担保責任)
第九百十一条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
第九百十二条 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
2 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
第九百十三条 担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。
(遺言による担保責任の定め)
第九百十四条 前三条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。