遺言は原則として、遺言者が死亡したときからその効力を生じます。そのため、遺言者の死亡以前に受遺者(財産をもらう人)が死亡していた場合は、遺言は当該部分について、無効となります。
そして、受遺者が取得する予定であった財産は、相続財産として、法定相続人が法定相続分で承継することになります。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従います。これを予備的(補充的)遺言といいます。
1.遺贈の効力
遺言は、原則として、遺言者が死亡したときから、その効力を生じます(民法985条1項)。
そのため、遺言者が死亡する前においては、受遺者(財産をもらう人)は何らの権利も有しないことになります。
2.受遺者が遺言者よりも前に死亡していた場合
では、受遺者が遺言者よりも前に死亡していた場合、遺言の効力はどうなるのでしょうか。
この点、前述のとおり、遺言は遺言者が死亡したときに初めてその効力を生じるため、受遺者が先に亡くなっていれば、遺言が効力を生じた時点で受遺者が存在しないことになります。
したがって、この場合、遺言はその部分については、効力を生じません(民法994条1項)。
そして、受遺者が取得する予定であった財産は、相続財産として、相続人全員の遺産分割協議の対象財産となります。
予備的(補充的)遺言
ただし、受遺者が遺言者よりも前に死亡していた場合であっても、遺言者が遺言で別段の意思表示をしていた場合は、遺言は有効です(民法994条2項ただし書)。このような遺言を、予備的(補充的)遺言といいます。
例えば、「妻○○が遺言者より以前に死亡していたときは、遺言者の長男○○(○年○月○日生まれ)に相続させる」のように、遺言のなかで予備的に取得者を指定していたような場合です。
予備的遺言は、遺言者が死亡するよりも前に受遺者が死亡することを条件とする条件付遺言とされており、その場合、予備的遺言において指定された者が受遺者となります。
なお、予備的遺言について、さらに予備的遺言をすることも可能です。
3.具体例
以下では、予備的遺言がない場合、ある場合の具体例を紹介します。なお、遺贈によって財産を取得した場合でも、その内容によっては遺留分の問題は残ります。
3-1.予備的遺言がない場合
相続関係:夫、妻、長男、二男の四人家族
(時系列)
①夫が妻に自宅不動産、長男に預貯金を相続させると遺言
②妻が死亡
③夫が死亡
この場合、夫の妻に対する自宅不動産の遺贈は、夫の死亡以前に妻が死亡しているため、無効となります。
そのため、妻がもらうはずであった自宅不動産は、夫の法定相続人が相続することになりますが、このケースでは夫の法定相続人は長男と二男の2名であることから、2名が法定相続分(2分の1ずつ)で相続することになります。
3-2.予備的遺言がある場合
相続関係:夫、妻、長男、二男の四人家族
(時系列)
①夫が妻に自宅不動産、長男に預貯金を相続させると遺言。遺言には、妻が夫より以前に死亡した場合は、自宅不動産は長男の子Aに遺贈するとの予備的遺言あり。
②妻が死亡
③夫が死亡
この場合、夫の妻に対する自宅不動産の遺贈は、夫の死亡以前に妻が死亡しているものの、妻が夫より以前に死亡していた場合は、長男の子Aに遺贈するとの予備的遺言があることから、自宅不動産はAが取得することになります。
参考条文
民法
(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
第九百九十四条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
第九百九十五条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。