成年被後見人も、満15歳に達しており、かつ遺言能力を有していれば、有効に遺言を作成することができます。作成する遺言の方式(自筆証書遺言、公正証書遺言等)についても、制限はありません。
もっとも、成年被後見人は、事理を弁識する能力を欠く常況にある者であるため、有効に遺言を作成するためには、上記に加え、一定の要件を満たす必要があります。その要件は、次のとおりです。
①成年被後見人が、遺言作成時において事理を弁識する能力を一時回復していること
②医師2名以上の立会があること
③立ち会った医師が、成年被後見人が遺言作成時に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、押印すること
1.成年被後見人とは
成年被後見人(せいねんひこうけんにん)とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた者のことをいいます(民法7条、8条)。
ここで「事理を弁識する能力」とは、物事を判断したり、有効な意思表示をしたりする能力のことをいいます。成年被後見人は、この能力を常に欠く状態にあるものとされています。
2.遺言の作成に必要な能力
遺言を作成するためには、遺言能力(いごんのうりょく)が必要とされています。遺言能力とは、遺言の内容及びそれによって生じる結果を理解する能力のことをいいます。
民法は、満15歳に達した者は、遺言をすることができると規定しています(民法961条)が、満15歳に達していれば誰でも遺言をすることができるわけではなく、遺言をするときに、前述の遺言能力を有している必要があり(民法963条)、遺言能力のない者がした遺言は、無効です。
したがって、通常は、満15歳に達していて、かつ遺言を作成する時点において遺言能力を有していれば、有効に遺言を作成することができます。
3.成年被後見人が遺言を作成する方法
成年被後見人も、満15歳に達しており、かつ遺言能力を有していれば、有効に遺言を作成することができます。作成する遺言の方式(自筆証書遺言、公正証書遺言等)も制限はありません。
もっとも、成年被後見人は、事理を弁識する能力を欠く常況にある者であるため、有効に遺言を作成するためには、上記に加え、一定の要件を満たす必要があります。その要件は、次のとおりです。
①成年被後見人が、遺言作成時において事理を弁識する能力を一時回復していること
②医師2名以上の立会があること
③立ち会った医師が、成年被後見人が遺言作成時に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、押印すること
以上のとおり、医師2名以上による確認及び証明が必要なことから、成年被後見人が有効に遺言を作成することは、一般的には難しいといえるでしょう。
なお、遺言の作成は身分行為であるため、成年後見人が成年被後見人を代理して遺言を作成することはできません。
4.被保佐人、被補助人の場合
被保佐人(ひほさにん)や被補助人(ひほじょにん)は、事理弁識能力が不十分ではあるものの、欠けているのが通常の状態とまではいえないため、成年被後見人のような特別の制限はありません。
したがって、被保佐人及び被補助人は、満15歳に達していて、かつ遺言を作成する時点において遺言能力を有していれば、単独で有効に遺言を作成することができます。
その場合でも遺言能力の有無を巡る後日の争いを防止するため、遺言の方式は公正証書遺言によることが望ましいでしょう。
参考条文
民法
(遺言能力)
第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
第九百六十二条 第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。
第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
(成年被後見人の遺言)
第九百七十三条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。