遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法1022条)。一番簡単な方法としては、遺言書を再度書き直す方法が考えられます。
自筆証書遺言の場合は、遺言書を破棄したときは、破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条)。しかし、公正証書遺言の場合は、公正証書遺言の正本又は謄本を破棄したとしても、撤回したものとはみなされないため、新たに遺言書を作成する必要があります(新たな遺言書は自筆証書遺言でも構いません)。
遺言書を作成した後、推定相続人との関係や財産状況等によって、遺言書の内容を撤回もしくは修正したいと考えるケースも考えられます。そのような場合、どのような方法があるのでしょうか。
1.新たな遺言書によって撤回、修正する
前の遺言を撤回、修正したい場合は、新たに遺言書を作成するケースが多いと考えられます。
その中で、前の遺言書を日付等で特定し、その全部を破棄した上で、新たな内容の遺言書を作成する方法が、解釈に疑義が生じにくいため、一般的には好ましい方法といえます。もちろん、前の遺言の一部について撤回、修正しても構いません。
仮に、新たな遺言書に、撤回、修正する旨の記載がなかったとしても、前の遺言と矛盾抵触する部分については、日付の新しい遺言の内容が優先します。
2.遺言書に直接修正を加える(自筆証書遺言の場合)
自筆証書遺言の場合、遺言者が遺言内容に直接修正を加えることもできます。
その方法は、「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない」(民法968条2項)と定められています。
しかし、この方法は煩雑であり、修正方法が間違っていると遺言の効力にも影響するため、やむを得ない事情がなければ新たに遺言書を書き直す方がよいでしょう。なお、公正証書遺言の場合は、遺言者が勝手に修正することはできません。公正証書遺言は公証人の作成する公正証書であるため、公証人による修正手続が必要となります。
3.遺言書を破棄する(自筆証書遺言の場合)
遺言書(自筆証書遺言)を破棄した場合も、遺言を撤回したものとみなされます。遺言書の内容を修正したいのではなく、遺言書自体をなかったものにしたい場合は、遺言書を破棄する方法が簡単といえます。
ただし、公正証書遺言の場合は、遺言書自体が公証人の作成する公正証書であることから、作成時に受領した公正証書遺言の正本及び謄本を破棄したからといって、当該遺言を破棄したことにはなりません。公正証書遺言の内容を撤回、修正したい場合は、新たな遺言によって撤回、修正する必要があります。その形式は自筆証書遺言でも公正証書遺言でも構いません。
4.遺言の目的物を処分、破棄する
遺言の目的物を、遺言の内容と矛盾する内容で処分したり破棄した場合は、その矛盾する部分について前の遺言を撤回したものとみなされます。
例えば、X不動産を長男Aに遺贈し、Y不動産を長女Bに遺贈する内容の遺言がある場合に、被相続人が生前にX不動産を売却した場合は、遺言のうち、X不動産に関する部分については撤回されたものとみなされます。
参考条文
民法
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(遺言の撤回)
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
第千二十四条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。