遺留分侵害額請求をしたにもかかわらず、相手方がこれに応じない場合には、家庭裁判所の調停手続を利用することができます。
調停手続においては、調停委員が当事者の間に入って話し合いを行い、紛争の解決を図ります。それでも合意に至らず、調停が成立しなかった場合は、地方裁判所に対して遺留分侵害額請求訴訟を提起することができます。
目次
1.遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、遺留分を有する一定の法定相続人が、被相続人から贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害された限度で、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することをいいます。
2.遺留分減殺を請求できる者
遺留分減殺を請求できる者は、遺留分権利者とその承継人です。
遺留分権利者
遺留分権利者は、兄弟姉妹を除く相続人です。具体的には、被相続人の配偶者、子や孫といった直系卑属、父母や祖父母といった直系尊属です。
遺留分権利者の承継人
遺留分権利者の承継人とは、遺留分権利者の相続人、包括受遺者、遺留分権利者から相続分を譲り受けた者のほか、特定の贈与や遺贈にかかる侵害額請求権の譲受人(特定承継人)も含まれます。
3.遺留分侵害額請求の方法
遺留分侵害額請求の方法は、特に形式が決まっているわけではなく、相手方に対する意思表示で行えばよいとされています。
しかし、遺留分侵害額請求権には、短期の消滅時効(民法1048条)が定められているため、時効期間内に意思表示を行ったことを証明するため、内容証明郵便(配達証明付)にて侵害額請求を行うのが一般的です。
なお、家庭裁判所の調停を申し立てただけでは、遺留分侵害額請求の意思表示をしたことにはならないため、調停の申し立てとは別に、内容証明郵便(配達証明付)等によって意思表示を行う必要があります。
4.遺留分侵害額請求の効果
遺留分侵害額請求権が行使されると、遺留分の侵害者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払い請求権が生じます。
民法改正前の遺留分減殺請求権(2019年6月30日以前に開始した相続が対象)と異なり、遺留分侵害額請求権では、不動産などの現物の共有状態は生じないため、遺留分を侵害する贈与や遺贈の対象財産そのものを取り戻すことはできません。
5.遺留分侵害額請求権の消滅時効
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間経過すると、相手方が消滅時効を援用した場合、時効によって消滅します(民法1048条)。
また、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったか否かにかかわらず、被相続人が亡くなった日から10年が経過した場合には、遺留分侵害額請求権は消滅します(除斥期間)。
6.相手方が応じない場合の対応方法
遺留分侵害額請求をしたにもかかわらず、相手方がこれに応じない場合には、家庭裁判所の調停手続(遺留分侵害額の請求調停)を利用することができます。また、調停手続によっても合意に至らず、調停が成立しなかった場合は、地方裁判所に対して遺留分侵害額請求訴訟を提起することができます。
なお、2019年6月30日以前に開始した相続の場合、遺留分侵害額の請求調停ではなく、遺留分減殺による物件返還請求等の調停の申立てをすることになります。
6-1.調停の申立人
申立人となれるのは、遺留分権利者(兄弟姉妹以外の相続人)とその承継人(遺留分権利者の相続人、相続分の譲受人等)です。
6-2.調停の相手方
相手方は、遺留分侵害額請求の対象となる贈与・遺贈の受贈者・受遺者とその包括承継人です。
6-3.調停を申し立てる裁判所
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は遺留分権利者・相手方が合意で定めた家庭裁判所です。
参考条文
民法
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。