民法改正により、相続によって法定相続分を超える相続財産を取得した場合、法定相続分を超える部分については、その取得方法にかかわらず、登記などの対抗要件を備えていなければ、第三者に対抗することができないことになりました。
この改正により、いわゆる「相続させる」旨の遺言によって法定相続分を超える相続分を取得した相続人であっても、速やかに相続登記等を行う必要があります。
目次
1.相続によって権利を取得した場合の効力
民法改正前の取扱い
民法改正前においては、相続によって法定相続分を超える相続財産を取得した場合、法定相続分を超える部分については、その取得方法によって、第三者に対する対抗要件が必要か否かが分かれていました。
①相続分の指定、遺産分割方法の指定(相続させる旨の遺言)により取得した場合
相続分の指定、遺産分割方法の指定(相続させる旨の遺言)によって法定相続分を超える相続財産を取得した場合、相続人は、登記などの対抗要件なくして第三者に対抗できるとされていました。
判例は、特定の相続人が「相続させる」旨の遺言によって不動産を取得した場合、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるとし、この権利の取得は、登記なくして第三者に対抗することができるとしていました。
②遺贈、遺産分割により取得した場合
判例は、遺贈、遺産分割によって法定相続分を超える不動産を取得した場合、相続人は、登記をしなければ、これを第三者に対抗することはできないとしていました。
民法改正後の取扱い
民法改正により、相続によって法定相続分を超える相続財産を取得した場合、法定相続分を超える部分については、その取得方法にかかわらず、登記などの対抗要件を備えていなければ、第三者に対抗することができないことになりました。
以下では、相続財産の種類ごとに、民法改正後の取扱いを解説します。
1-1.不動産
前述のとおり、相続によって不動産を取得した相続人は、その法定相続分を超える部分については、取得方法を問わず、登記を備えていなければ第三者に対抗することはできないことになりました(民法899条の2第1項)。
例えば、被相続人の相続人が子2名(A、B)の場合で、被相続人が子Aに対し、「相続させる」旨の遺言によって不動産を遺贈した場合、子Aは相続登記をしなければ、自己の法定相続分2分の1を超える部分(2分の1の持分)について、第三者に対抗できないことになります。
仮に、子Aの単独名義の相続登記よりも先に、子Bの債権者Xが債権者代位によってABの法定相続分登記を行い、Bの持分2分の1の差押登記を経た場合、AはXに対抗できないことになってしまいます。
同様に、子Bが単独でABの法定相続分にしたがった登記を行い、その持分2分の1を第三者Yに売却し、YがAよりも先に登記を備えた場合、AはYに対し、自己の法定相続分を超える持分2分の1の取得について、Yに対抗できないことになります。
このように、民法改正後においては、法定相続分を超える相続分を取得した相続人は、速やかに相続登記を行う必要があります。
1-2.自動車
自動車は、登録制度があるため、登録が対抗要件となります。もっとも、自動車の価値は不動産に比べて低いため、対抗要件の有無が問題となるケースは多くないものと考えられます。
1-3.動産
動産は、不動産における登記制度、自動車における登録制度がないため、原則として引渡しが対抗要件となります。もっとも、動産については即時取得の制度があるため、対抗要件の有無が問題となるケースは多くないものと考えられます。
1-4.債権
相続によって債権を取得した相続人は、その法定相続分を超える部分については、その取得方法にかかわらず、通知その他の対抗要件を備えていなければ、債務者その他の第三者に対抗することができなくなりました。
なお、債務者以外の第三者に対する通知又は承諾は、確定日付のある証書による必要があります。確定日付のある証書は、通常は内容証明郵便が利用されることが多いといえます。
なお、法定相続分を超えて債権を承継した相続人が、遺言や遺産分割の内容を明らかにして債務者にその承継の通知をした場合、共同相続人全員が債務者に通知したものとみなし、全員の対抗要件が具備されます(民法899条の2第2項)。
2.相続によって義務を承継した場合の効力
債権者は、遺言等によって相続分の指定がなされていたとしても、法定相続分にしたがって、その債権を行使することができます。
- 相続分・法定相続分についてさらに詳しく知りたい方は、「相続分・法定相続分のよくあるご質問」をご覧ください。
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