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任意後見契約とは、どのような制度ですか。

回答

任意後見契約とは、判断能力があるうちに、認知症などで判断能力が衰えた場合に備えて、自分が信頼できる人を後見人として頼んでおく契約のことをいいます。

 

法定後見との違いは、法定後見は、本人の判断能力が衰えた後に、家庭裁判所が選んだ後見人等が選任されることに対し、任意後見制度においては、元気なうちに自分で信頼できる親族などを後見人として選ぶことができる点にあります。

 

任意後見契約は、本人と任意後見人との間の契約であるため、法律の趣旨に反しない限り、任せる内容やその範囲についても、自由に決めることができます。

 

解説

1.任意後見契約とは

任意後見契約とは、簡単に言うと、元気なうちに、認知症などで判断能力が衰えた場合に備えて、自分が信頼できる人を後見人として頼んでおく契約のことをいいます。

 

法定後見制度との違いは、法定後見は本人の判断能力が衰えた後に、家庭裁判所が選んだ後見人等が選任されることに対し、任意後見制度においては、元気なうちに自分で信頼できる親族などを後見人として選ぶことができる点にあります。

 

また、任意後見契約は、本人と任意後見人との間の契約であるため、法律の趣旨に反しない限り、任せる内容やその範囲についても、自由に決めることができます。

 

加えて、任意後見契約は契約であることから、任意後見人の権限は契約に基づく代理権に限られます。そのため、法定後見制度と異なり、任意後見人には本人の法律行為に対する取消権が認められていません。

 

2.任意後見人になれる人、なれない人

任意後見人は、親族や友人など、信頼できる方になってもらうのが一般的です。特に任意後見人になるための資格は不要です。ただし、以下に該当する方は、任意後見人になることができません(任意後見契約に関する法律4条)。

 

・未成年者

・家庭裁判所で免ぜられた(=家庭裁判所から職を解かれた)法定代理人、保佐人又は補助人

・破産者

・行方の知れない者

・本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族

・不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

 

3.任意後見の流れ

3-1.任意後見契約の締結

任意後見契約を締結するには、公正証書による必要があります。公正証書によるものとされているのは、契約内容が法律に適合したものとする必要があるためです。

 

3-2.本人の判断能力の低下、任意後見監督人の選任申立

本人の判断能力が低下したときは、任意後見受任者や親族などが家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任申立てをします。

 

任意後見監督人とは

任意後見監督人とは、任意後見人をチェックする人のことです。

 

任意後見人の職務は、任意後見監督人が選任されて初めて開始します。つまり、チェック体制ができてから仕事が始まります。任意後見人は、任意後見監督人のチェックに加えて、家庭裁判所のチェックも受けることになります。

 

仮に、任意後見人が不適切な職務を行うなどの問題があった場合は、家庭裁判所は、本人、親族、任意後見監督人の請求により、任意後見人を解任することができます。

 

3-3.任意後見の開始

家庭裁判所が、任意後見人を監督する任意後見監督人を選任すると、その時点から任意後見が開始することになります。これは本人保護のため、任意後見人をチェックする監督人が選任されて初めて任意後見がスタートするとされているためです。

 

任意後見が開始すると、任意後見人は任意後見契約に基づき、その事務を行います。通常は、不動産や預貯金等の管理、税金や公共料金の支払い、介護契約や入院手続及びその支払い等が主なものです。

 

3-4.本人の死亡により終了

本人が死亡すると、任意後見は終了となります。なお、本人の死亡以外の終了事由としては、任意後見契約が解除された場合、任意後見人が解任された場合、任意後見人が死亡した場合等があります。

 

4.任意後見契約の費用

前述のとおり、任意後見契約は、公正証書による必要があります。公正証書作成にかかる費用(公証役場の手数料)は、1契約あたり11,000円です(ただし、公正証書の枚数が4枚を超える場合は超える1枚ごとに250円が加算されます。)。その他印紙代等で数千円程度をみておけばよいでしょう。

 

5.法定後見との優先関係

任意後見契約は、本人が十分判断能力がある状態で契約したものです。そのため、本人の意思を尊重する観点から、任意後見契約は、原則として法定後見に優先します。

 

しかし、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、任意後見契約が登記されていたとしても、後見開始の審判等をすることができます(任意後見契約に関する法律101項)。

 

例えば、任意後見契約に定めた代理権の範囲を超えた法律行為が必要となった場合や、本人保護のために取消権の行使等が必要となった場合が考えられます。

 

 

参考条文

任意後見契約に関する法律

(趣旨)

第一条 この法律は、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。

(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。

一 任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。

二 本人 任意後見契約の委任者をいう。

三 任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。

四 任意後見人 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。

(任意後見契約の方式)

第三条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。

(任意後見監督人の選任)

第四条 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

一 本人が未成年者であるとき。

二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。

三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。

イ 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者

ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族

ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

2 前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。

3 第一項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない。

4 任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族若しくは任意後見人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任する。

5 任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができる。

(任意後見監督人の欠格事由)

第五条 任意後見受任者又は任意後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、任意後見監督人となることができない。

(本人の意思の尊重等)

第六条 任意後見人は、第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

(任意後見監督人の職務等)

第七条 任意後見監督人の職務は、次のとおりとする。

一 任意後見人の事務を監督すること。

二 任意後見人の事務に関し、家庭裁判所に定期的に報告をすること。

三 急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において、必要な処分をすること。

四 任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。

2 任意後見監督人は、いつでも、任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め、又は任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況を調査することができる。

3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、任意後見監督人に対し、任意後見人の事務に関する報告を求め、任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況の調査を命じ、その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命ずることができる。

4 民法第六百四十四条、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十三条第四項、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百五十九条の二、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は、任意後見監督人について準用する。

(任意後見人の解任)

第八条 任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができる。

(任意後見契約の解除)

第九条 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。

2 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。

(後見、保佐及び補助との関係)

第十条 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。

2 前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。

3 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。

(任意後見人の代理権の消滅の対抗要件)

第十一条 任意後見人の代理権の消滅は、登記をしなければ、善意の第三者に対抗することができない。

 

 

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