目次
回答
成年後見制度を利用している場合、遺産分割を行うには、成年後見人等の関与が必要となるケースがあります。
具体的には、成年後見人がいる場合、常に成年後見人が本人に代わって、遺産分割を行います。
保佐人がいる場合、保佐人に代理権を付与した上で、代わりに遺産分割を行ってもらうか、本人が行って保佐人に同意してもらうか、のいずれかとなります。
補助人がいる場合、補助人に代理権を付与した上で、代わりに遺産分割を行ってもらうか、本人が行って補助人に同意してもらうか、本人が補助人の関与なしに単独で行うか、のいずれかとなります。
いずれの場合でも、成年後見人等が遺産分割を行う場合や遺産分割に同意する場合、成年後見人等に課せられる善管注意義務との関係から、原則として本人の法定相続分を確保する必要があります。
また、原則として、遺産が債務超過の場合には、相続放棄を行い、本人の遺留分が侵害されるような遺贈がある場合は、遺留分侵害額請求権の行使を行うことになります。
解説
1.成年後見とは
成年後見(ここでは、法定後見をいいます)とは、認知症、知的障害、精神障害などの理由で、判断能力が不十分となった方を保護したり、適切な判断ができるようサポートする制度のことをいいます。
本人の自己決定権の尊重と、本人を保護・サポートする必要とのバランスより、成年後見制度には、判断能力の程度に応じて、次の3つの類型があります。
後見 |
保佐 |
補助 |
|
本人の判断能力 |
欠けているのが通常の状態 |
著しく不十分 |
不十分 |
また、上記に応じて、成年後見人等に与えられる権限の範囲が決まっています。
遺産分割との関係においては、成年後見人等の権限又は役割は、次のとおりです。
1-1.成年後見人の場合
成年後見人は、本人の財産に関する法律行為について、包括的な代理権を有します。そのため、遺産分割が必要な場合は、成年後見人が本人に代わって、遺産分割を行います。この場合に、遺産分割内容についての本人の承諾は不要です。
1-2.保佐人の場合
保佐人は、民法13条1項に規定されている事項(不動産や自動車などの重要な財産の購入や売却、借金、相続の承認や放棄など)について、同意権及び取消権を有します。
しかし、保佐人は、本人のために遺産分割を行う権限を当然には有しません。なぜなら、本人の判断能力は著しく不十分ではあるものの、常に欠いているとまではいえないためです。
そこで、必要があれば、保佐人に遺産分割の代理権を与える審判を家庭裁判所に求めることができます。ただし、代理権付与の審判を行うためには、本人の同意が必要となります。
1-3.補助人の場合
後見・保佐と異なり、補助の類型は、不十分ながらも本人の判断能力が残っている状態であるため、補助人が本人を代理又は同意権を行使するためには、補助開始の審判とは別に、特定の行為について代理権又は同意権付与の審判が必要となります。
すなわち、補助人が遺産分割を代理するためには、補助開始の審判に加え、遺産分割の代理権についての審判を、補助人が遺産分割の同意権を行使するためには、補助開始の審判に加えて同意権付与の審判が必要となります。
1-4.まとめ
以上をまとめると、次の表のとおりとなります。
遺産分割における権限又は役割 |
|||
成年後見人 |
成年後見人が遺産分割を行う |
||
保佐人 |
遺産分割の代理権あり |
保佐人が遺産分割を行う |
|
遺産分割の代理権なし |
本人が遺産分割を行い、保佐人が同意権を行使 |
||
補助人 |
遺産分割の代理権あり |
補助人が遺産分割を行う |
|
遺産分割の代理権なし |
遺産分割の同意権あり |
本人が遺産分割を行い、補助人が同意権を行使 |
|
遺産分割の同意権なし |
本人が遺産分割を行う |
本人の視点から捉えると、成年後見人がいる場合は、常に成年後見人が遺産分割を行います。
保佐人がいる場合は、代理権を付与して代わりに行ってもらうか、本人が行って同意してもらうかのいずれかとなります。
補助人がいる場合は、代理権を付与して代わりに行ってもらうか、本人が行って同意してもらうか、本人が補助人の関与なしに単独で行うか、のいずれかとなります。
2.成年後見と遺産分割の内容
成年後見制度を利用し、成年後見人等が遺産分割を行う場合や遺産分割に同意する場合、通常の遺産分割とは異なる点があります。
すなわち、成年後見人等には、善管注意義務が課されているため、原則として、本人が少なくとも法定相続分を確保できるように協議を行う必要があります。
2-1.原則は法定相続分の確保
通常の遺産分割協議では、配偶者が全て取得したり、長男が全て取得する代わりに、多少のハンコ代をもらう、といった協議が成立することもよくあります。
しかし、前述のとおり、成年後見人等には善管注意義務が課されているため、そのような協議は特別の事情がない限り、善管注意義務違反として、後日損害賠償請求の対象となる可能性があります。
そこで、原則は本人の法定相続分を確保した上で、本人の資産状況や生活実態に合わせて、どのような財産を取得するのかを検討する必要があります。
例えば、本人が施設に入居しており、死亡するまで入所する予定であれば、本人が取得する財産は不動産よりも流動資産である方が望ましい、といったものです。
2-2.債務超過の場合
被相続人の遺産が債務超過の場合、法定相続分の財産を取得したとしても、それ以上の負債を負うことになります。そこで、一般的には、家庭裁判所に対し、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続放棄の申述を行うことになります。
2-3.遺言がある場合
遺言があり、本人が相続財産を取得する内容であれば、成年後見人等は、遺言の内容にしたがって、相続財産を取得するための手続き(預貯金の解約、不動産の名義変更等)を行います。
仮に、遺言が他の相続人に対し、財産を全て相続させるものであり、本人の遺留分を侵害している場合、後見人等は、一般的には、遺留分侵害額請求権を行使することになります。