後見制度支援信託とは、後見制度による支援の必要な本人(成年被後見人、未成年被後見人に限ります)の財産のうち、日常的に使用しない金銭を信託銀行に信託する制度のことをいいます。
信託された金銭は、元本が保証され、預金保険制度によって保護されます。また、信託された財産については、後見人であっても、裁判所の指示書なしに払い戻したり解約することができなくなります。
目次
1.後見制度支援信託とは
後見制度支援信託とは、後見制度による支援の必要な本人(成年被後見人、未成年被後見人に限ります)の財産のうち、日常的に使用しない金銭を信託銀行に信託する制度のことをいいます。
例えば、本人の預貯金が5,000万円あり、そのうち本人の日常生活の支払いに必要十分な金額が300万円の場合、4,700万円を信託銀行に信託し、残りの300万円を日常生活の支払いのために後見人が管理します。
その上で、毎月の収支がマイナスであれば、一定額を定期的に信託銀行から後見人が管理する口座に振り込まれるよう設定することができます。
信託された金銭は、元本が保証され、預金保険制度によって保護されます。また、信託された財産については、後見人が裁判所の指示書なしに払い戻したり解約することができなくなります。
2.後見制度支援信託の対象となる財産
後見制度支援信託の対象となる財産は、金銭のみとなります。不動産や株式、有価証券などの財産は、対象となりません。
3.後見制度支援信託の利用が検討されるケース
前述のとおり、後見制度支援信託の対象となるのは、成年被後見人、未成年被後見人が本人である場合です。被保佐人、被補助人はこの制度を利用することはできません。
そして、家庭裁判所により基準は異なるものと考えられますが、概ね1,000万円以上の預貯金があり、親族の間で紛争がない等の基準を満たせば、後見制度支援信託の利用が検討される可能性があります。
4.後見制度支援信託にかかる費用
後見制度支援信託を利用する場合にかかる費用は、①信託契約を締結する専門職(弁護士等)の報酬、②信託銀行に払う報酬、の2つがあります。
後見制度支援信託を利用する場合、信託契約の締結等の手続が必要となります。この手続は専門的な知識や経験が必要なことから、親族が後見人に選任される場合でも、弁護士等の専門職が併せて選任され、信託契約締結後に専門職は辞任する流れとなることが通常です。
5.後見制度支援信託の手続の流れ
後見制度支援信託の手続の流れは、以下のとおりです。
5-1.既に親族後見人が選任されている場合
5-1-1.家庭裁判所が専門職を追加で後見人に選任
既に親族が後見人に選任されている場合で、家庭裁判所が本人の財産状況等を踏まえて後見制度支援信託の利用を検討すべきと判断した場合、追加で弁護士等の専門職が後見人に選任されます。
5-1-2.専門職後見人による後見制度支援信託の適否の検討
追加で選任された専門職後見人は、本人の財産や収支状況等を総合的に判断し、後見制度支援信託を利用すべきか否かを検討します。
5-1-3.専門職後見人が家庭裁判所に後見制度支援信託の適否を報告
専門職後見人は、後見制度支援信託を利用すべきと判断した場合は、信託する財産の額、信託せずに後見人が管理する財産の額等を家庭裁判所に報告します。
検討の結果、後見制度支援信託を利用すべきではないと判断した場合は、その旨を家庭裁判所に報告します。
5-1-4.信託銀行との間で信託契約の締結
家庭裁判所は、専門職後見人からの報告をふまえて後見制度支援信託を利用すべき事案と判断した場合は、専門職後見人に信託契約にかかる指示書を交付します。当該指示書に基づき、専門職後見人は、信託銀行と信託契約を締結します。
5-1-5.専門職後見人から親族後見人への管理財産の引継ぎ
専門職後見人は、後見制度支援信託を利用すべきか否かの調査や信託契約等をするために選任されていることが多いため、信託銀行と信託契約の締結が終了した後は、親族後見人に管理財産を引継ぎ、辞任することになります。
ただし、引き続き専門職後見人の関与が必要と家庭裁判所が認める場合は、辞任せずにそのまま関与を継続します。
5-2.後見人が選任されていない場合
家庭裁判所が後見を開始するかどうかを審理する際に、後見制度支援信託の利用を検討すべきかを審理します。制度の利用を検討すべきと判断した場合には、専門職を後見人に選任します。専門職の後見人に加え、親族後見人も選任することもあります。
その後の手続きは、基本的には上記5-1-2以降と同様です。
6.後見制度支援信託を利用した後の財産管理
後見制度支援信託を利用した場合、後見人は、本人の日常生活に必要な金銭のみを、後見人の管理する口座で管理することになります。
本人の毎月の収支によっては、管理する口座の残高が不足すること等も考えられますが、信託を利用する際に、専門職後見人が本人の収支状況に応じて手元に残す金銭を設定し、収支がマイナスであれば定期的に信託口座から不足分相当額が入金されるよう設定しているため、多少の収支の変動では信託財産を取り崩す必要は生じないものと考えられます。
もし多額の臨時出費が必要となった場合は、家庭裁判所に理由や裏付け資料を報告の上、指示書を発行してもらいます。この指示書を信託銀行に提出することで、信託財産から必要な分の払戻をうけることができます。