相続人の廃除とは、兄弟姉妹以外の相続人について、著しい非行の事実がある場合に、被相続人の生前又は遺言による請求により、家庭裁判所が当該相続人の遺留分を含む相続権を剥奪する制度です。
相続欠格との違いは、相続欠格が法律上当然に相続権を剥奪するのに対し、相続人の廃除は、被相続人の請求によって家庭裁判所が相続権を剥奪する点にあります。
1. 相続人の廃除
相続人の排除とは、相続欠格のように当然に相続資格を剥奪するほどではないものの、虐待や重大な侮辱等を行った遺留分を有する推定相続人(兄弟姉妹以外の相続人)について、被相続人の意思(請求)によって家庭裁判所がその相続人の資格を剥奪する制度です。
2. 廃除の事由
廃除の事由として、民法は次のものを挙げています。
- 被相続人を虐待した場合
- 被相続人に対して、重大な侮辱を与えた場合
- 推定相続人にその他の著しい非行があった場合
3. 廃除の手続
廃除事由に該当する場合でも、相続欠格と異なり、直ちに相続資格が剥奪されるわけではありません。すなわち、被相続人が生前又は遺言によって相続人の廃除を家庭裁判所に対して請求し、家庭裁判所の廃除の調停の成立又は審判が確定してはじめて廃除の効力が生じます。
また、遺言による廃除の場合は、被相続人の相続開始後に、遺言執行者が家庭裁判所に対して排除の請求をすることになります。
4. 廃除の効果
家庭裁判所の廃除の調停の成立又は審判が確定すると、廃除された相続人は、直ちに相続権を失います。この効果は、被相続人の生前の場合は直ちに効力を生じ、相続開始後の場合は相続開始日に遡って効力を生じます。
ただし、廃除は代襲原因となるため、廃除された相続人に子(被相続人からみると孫)がいるような場合は、その子が代襲相続人となります。
また、被相続人はいつでも廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
なお、相続欠格と異なり、廃除の旨は戸籍に記載されるため、相続手続(例えば不動産の名義変更など)については、戸籍を添付することで廃除の事実を証明することが可能です。
参考条文
民法
(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
(推定相続人の廃除の取消し)
第八百九十四条 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
(推定相続人の廃除に関する審判確定前の遺産の管理)
第八百九十五条 推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。
2 第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。