原則として人が権利を取得することができるのは、出生(生まれること)からとされています。しかし、民法は例外的に、相続、不法行為に基づく損害賠償請求の場合は、出生を条件に胎児に権利能力があるものとみなしています(民法886条)。
したがって、相続開始時に妊娠中の胎児は、後に出生した場合には法定相続人に含まれることになります。
1.権利能力
人が権利を取得するのは、生まれてからが原則です。しかし、胎児については生まれてくる蓋然性が高く、出生を基準とした場合、相続や不法行為に基づく損害賠償請求のケースにおいては、出生時期の違いによって権利を取得できないという不公平な結果となる可能性があります。
そこで民法は例外的に、相続、不法行為に基づく損害賠償請求の場合は、出生を条件に胎児に権利能力があるものとみなしています。
2.相続の場合
相続の場合、被相続人の死亡の時点で胎児であったとしても、後に出生した場合には、被相続人の死亡時において既に生まれていたものとみなされます。
例えば、3月1日に被相続人が死亡し、その時点では胎児がまだ生まれていないとしても、8月1日に出生した場合には、3月1日の時点で既に生まれていたものとみなされます。
ただし、この規定はあくまでも胎児の出生が条件であるため、流産や死産となった場合には、原則通り胎児は権利を取得することはできません。
胎児を除いた遺産分割協議の効力
遺産分割協議は、相続人全員が合意してはじめて成立します。胎児も後に出生した場合には、相続開始時に遡って既に生まれたものとみなされ、相続人となります。
そのため、胎児を除いてなされた遺産分割協議は、後に胎児が出生した場合には、無効になるものと考えられます。また、胎児は出生するまでは相続人とみなされないため、胎児を母が代理して遺産分割協議を行うこともできないと解されています。
3.不法行為に基づく損害賠償請求の場合
不法行為に基づく損害賠償請求の場合も、相続の場合と同様に、不法行為の時点で胎児であったとしても、後に出生した場合には、不法行為の時点において既に生まれていたものとみなされます。
例えば、3月1日に胎児と母親が交通事故の被害に遭った後、8月1日に胎児が出生した場合、3月1日の時点で既に生まれていたものとみなされるため、母親に加えて胎児も、加害者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。流産や死産だった場合には、相続の場合と同様、胎児については損害賠償請求をすることはできません。
参考条文
民法
第三条 私権の享有は、出生に始まる。
(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
第七百二十一条 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
(相続に関する胎児の権利能力)
第八百八十六条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。