内縁の妻は、相続人がない場合の賃借権を除いて、相続を受ける権利を有しません。また、愛人は相続について何らの権利も有しません。
ただし、遺言によって遺贈を受けた場合や特別縁故者として認められた場合には、相続財産をもらうことができます。
目次
1.内縁の妻、愛人とは
内縁の妻とは、社会生活上夫婦同様の共同生活を営み、婚姻意思を有しているものの、婚姻届を出していないために、法律上の配偶者とは認められない妻のことをいいます。
愛人とは、本稿では、相手である男性に配偶者(妻)がいるものの、それを知りつつ当該男性と交際関係にある女性のことをいいます。
内縁の妻、愛人の権利義務
内縁の妻にあたる場合、法律上、婚姻に準じた関係として、貞操義務、同居・相互扶助等の義務、婚姻費用分担義務、財産分与、といった権利義務が認められています。
一方、愛人には上記のような法律上の権利義務は認められていません。
2.内縁の妻、愛人の相続権
内縁の妻、愛人ともに、相続を受ける権利は認められていません。
どれだけ長期間夫婦関係同様の生活実態を有していたとしても、仮に結婚式を挙げていたとしても、相続する権利は認められていません。ただし、内縁の妻の賃借権については、後述のとおり借地借家法によって保護されています。
3.内縁の妻、愛人が相続財産を受け取る方法
内縁の妻、愛人は、前述のとおり相続する権利は認められていませんが、次の方法により、相続財産を受け取ることが可能です。
3-1.遺言
内縁の妻や愛人が相続財産を受け取る方法として最も簡便なのは、遺言によって財産を譲り受けることです。
もっとも、遺贈は遺留分を侵害することはできません。遺留分とは、配偶者や子等の一定の相続人に認められた相続財産に対する一定割合の権利のことをいいます。
そのため、仮に全財産を内縁の妻に遺贈する旨の遺言書があったとしても、相続財産の2分の1(直系尊属のみが相続人の場合は3分の1)については、遺留分侵害額請求を受けた場合、遺留分侵害額相当の金銭を支払う必要があります。
3-2.特別縁故者
特別縁故者とは、①被相続人と生計を同じくしていた者、②被相続人の療養看護に努めた者、③その他被相続人と特別の縁故があった者、のことをいいます(民法958条の3第1項)。
被相続人に相続人が誰もいない場合(相続放棄によって誰もいなくなった場合を含みます)、内縁の妻は、一定の期間内に家庭裁判所に申し立てることにより、特別縁故者として、相続財産の全部又は一部を受け取ることができる可能性があります。
また、愛人であっても、被相続人に配偶者がおらず、上記①~③要件を満たせば、特別縁故者として認められる可能性もあります。
4.内縁の妻、愛人が同居していた場合の賃借権
被相続人(内縁の夫)が賃借人となってアパート等を借り、内縁の妻と共同生活しており、相続人がいない場合、内縁の妻は、被相続人の死亡後もそのアパートに住み続けることができます(借地借家法36条)。愛人の場合はそのような保護はありません。
5.内縁の妻、愛人と遺族年金受給権
遺族年金は、被保険者が死亡した場合に、当該被保険者によって生計を維持していた配偶者に対して支給される年金です。
ここでいう「配偶者」には、婚姻関係にある配偶者(法律上の妻)のみならず、事実上婚姻関係と同じ状態にある内縁の妻も含まれます。愛人の場合はそのような保護はありません。
なお、法律上の妻がいる場合に、内縁の妻が遺族年金を受給するためには、法律上の妻の婚姻関係が実態を失って形骸化し、事実上の離婚状態であると認められる必要があります。
法律上の妻の婚姻関係が事実上の離婚状態であると認められない場合は、法律上の妻が遺族年金を受給できる配偶者として扱われます。
6.内縁の妻、愛人との間に子がいる場合
内縁の妻との間に生まれた子、あるいは愛人との間に生まれた子がいる場合、当該子は、被相続人(内縁の夫)の相続人となれるのでしょうか。
非嫡出子の相続権
上記のような、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことを、非嫡出子(ひちゃくしゅつし)といいます。
非嫡出子は、母親との親子関係は出生の事実によって明らかであるため、原則として母親の姓を名乗り、母親が親権者となります。一方、父親との親子関係は明らかではないため、父親の認知がない限りは、父親との法律上の親子関係は生じません。
したがって、父親の認知がない限り、非嫡出子は父親(内縁の夫)の相続について、相続人となることはできません。
参考条文
民法
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
借地借家法
(居住用建物の賃貸借の承継)
第三十六条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。