相続した不動産を売却するには、不動産の名義を相続人名義に変更(相続登記)する必要があります。その上で、仲介業者に依頼するなどして、売却手続きを進めます。また、相続した不動産を売却した場合、譲渡所得税という税金がかかることがあります。譲渡所得税とは、不動産を売却したことによって利益が出た場合に、その利益の部分に課税される税金です。譲渡所得税は、保有期間で税率が変わったり、さまざまな特例を適用することで節税となる可能性もあることから、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
1.相続した不動産を売却するために必要な手続き
不動産を相続した場合、維持費や固定資産税もかかることから、すぐに売却したいと考える方もいます。
しかし、相続した不動産は、すぐに売却することはできません。売却するためには、不動産の名義変更(相続登記)などの手続きをする必要があります。
以下では、一般的なケースで想定される手続きを解説します。
1-1.相続登記
相続登記とは、不動産の名義を、被相続人から相続人に変更する手続きのことをいいます。
不動産を売却するためには、相続登記を行い、不動産の名義を被相続人から相続人等に変更する必要があります。なぜなら、法律上不動産の売却を行うことができるのは、現にその不動産を所有している相続人等であり、被相続人ではないためです。
1-2.不動産仲介業者に依頼
不動産を売りたい場合、それを買ってくれる方(買主)を探す必要があります。隣地同士や親族間の売買などの例外的なケースを除くと、通常は不動産仲介業者に買主を探してもらうことになります。
売却の依頼を受けた不動産仲介業者は、チラシやインターネット等の方法により販売活動を行い、買主を探すことになります。
1-3.売買契約の締結
購入希望者が出た場合、売買契約の細かい条件(測量の要否、手付金の有無、融資特約等)や代金決済の時期等について、不動産仲介業者を通じて交渉します。
内容がまとまれば、売主と買主との間で、売買契約を締結します。
1-4.境界確定測量
売買契約締結後、一般的には確定測量を行います。
確定測量とは、土地の正確な面積を測量し、隣地や道路所有者(県や市町村等)との間で境界を確定させる手続きのことをいいます。隣地も含めて土地を測量の上、土地の境界を隣地や道路所有者と確認し、境界杭を入れます。
境界確定測量を行うことで、土地の正確な面積が明らかとなると同時に、後日の隣地との境界を巡る紛争を防ぐことができます。
また、一般的には、境界確定測量と同時に、土地に越境している建物やコンクリート塀などがないかの調査が行われ、越境がある場合には、建替えなどの際に越境を解消する旨の確認書を交わします。
これらの境界確定測量等に要する費用は、通常売主が負担します。
なお、マンションの1室(専有部分)を売買する場合は、マンション建設の際に土地の測量が行われているため、土地の境界確定測量を行う必要はありません。
1-5.売買代金の決済・所有権移転登記
売買契約書で定められた残金決済日までに測量や融資等の手続きが完了すれば、売買代金の決済が行われます。
決済とは、売買代金の全額又は残金を買主から売主に支払うことをいいます。「受渡し」と言われることもあります。
決済時には、通常売主、買主、不動産仲介業者及び司法書士が銀行に集まり、書類を整えた上で、代金を支払うと同時に、権利書などの権利移転に必要な書類の受渡しが行われます。そして司法書士が、即日所有権移転の登記申請を管轄の法務局に対して行います。
1-6.売買代金の決済時にかかる諸費用
売買代金の決済時には、売買代金の他にも、さまざまな費用(諸費用)がかかります。以下では、代表的な費用について説明します。
1-6-1.印紙代
印紙代とは、印紙税法に基づいて、不動産売買契約書を作成した際に課税される税金のことで、契約書に貼付し、消印することによって納税します。印紙税の額は、契約書に記載された金額により異なります。
平成26年4月1日から令和6年(2024年)3月31日までの間に作成される不動産売買契約書については、税率が軽減されているため、下表の金額となります。なお、印紙は原本1通ごとに必要となります。例えば原本を2通作成した場合は、それぞれに印紙を貼付する必要があります。
契約金額 |
本則税率 |
軽減税率 |
10万円を超え50万円以下のもの |
400円 |
200円 |
50万円を超え100万円以下のもの |
1千円 |
500円 |
100万円を超え500万円以下のもの |
2千円 |
1千円 |
500万円を超え1千万円以下のもの |
1万円 |
5千円 |
1千万円を超え5千万円以下のもの |
2万円 |
1万円 |
5千万円を超え1億円以下のもの |
6万円 |
3万円 |
1億円を超え5億円以下のもの |
10万円 |
6万円 |
1-6-2.司法書士費用
司法書士費用とは、不動産の売買の登記手続きを行う司法書士に対する費用(手数料及び実費)です。
司法書士の手数料は、売買代金の金額や手続きの難易度、権利書の有無等によって異なります。また、実費の多くは登録免許税という税金であり、その税額は、固定資産税評価額に税率を乗じることによって算出されます。
不動産の売却に関係する登録免許税の税率は、次のとおりです。
土地 |
建物 |
|
相続登記 |
0.4% |
0.4% |
売買による移転登記 |
1.5%(2023年[令和5年]3月31日まで) |
2% |
抵当権の設定登記 |
債権額の0.4% |
債権額の0.4% |
*相続登記及び売買による移転登記の課税標準は、最新年度の固定資産税評価額です
*住宅用建物を取得する場合、一定の要件を満たせば軽減税率が適用されます
1-6-3.土地家屋調査士費用
土地家屋調査士費用は、売買契約締結後、売買代金決済時までに境界確定測量や地籍更正登記、建物滅失登記等を行った場合にかかる費用です。
事前に支払っても構いませんが、売買代金決済時にその他の諸費用と併せて支払われるケースが多いです。
1-6-4.仲介手数料
仲介手数料とは、不動産仲介業者に対して支払う費用です。
仲介手数料は、売買価格(取引額)に一定の%を乗じることで算出されますが、宅地建物取引業法で上限が定められています。
400万円を超える売買については、次の式で仲介手数料の上限を算出できます。
仲介手数料の上限額=(売買価格×3%+6万円)×消費税
例えば、3000万円の不動産の売却を依頼した場合、仲介手数料(上限額)は次のとおりです。
(3000万円×3%+6万円)×消費税(10%)=1,056,000円
なお、これは売主買主の一方当事者から受領できる上限額であるため、売主と買主の双方から仲介の依頼を受けている場合、売主買主それぞれから上記仲介手数料を受領することができます。
先の例だと、売主から1,056,000円、買主から1,056,000円をそれぞれ受領できることになります。
もちろん、これは上限額であるため、売主、買主との交渉によって上記よりも少ない手数料とすることも可能ですが、ほとんどのケースでは、不動産仲介業者は上限額を請求することが多いと考えられます。
1-6-5.建物取壊し費用等
建物取壊し費用とは、不動産を売却する場合に、売主の側で建物を取壊して更地にする際にかかる費用です。契約内容によっては、買主の側で取壊すケースもあります。
建物取壊しにかかる費用は、地域や業者、建物内の残置物の量や内容などによって大きく変わります。
建物取壊し費用は高額となることが多いため、事前に払えない場合は、売買代金の決済時に払うケースもあります。
また、建物を取り壊した後、地中に埋蔵物(地盤改良材や従前の建物の基礎や廃材等)が残っている場合、契約内容にもよりますが、一般的には売主側の負担にてこれらを撤去することが多いため、不測の費用負担が生じる場合があります。
2.相続した不動産を売却した場合にかかる税金
相続した不動産を売却した場合、譲渡所得税という税金がかかることがあります。
譲渡所得税とは、不動産を売却したことによって利益が出た場合に、その利益の部分に課税される税金です。
例えば、被相続人が2000万円で購入した土地が、2500万円で売れた場合、500万円の利益が出ているので、売却に要した諸経費を控除してもなお利益があれば、譲渡所得税が課税されます。反対に、同じ土地が1500万円でしか売れなかった場合、売却によって利益がでていないことから、譲渡所得税は課税されません。
売却によって利益が出たかどうかの計算
売却によって利益(売却益)がでたのかどうかは、次の式によって算定することができます。ここでは、売却した土地を仮にA土地とします。
売却益(譲渡所得)=A土地の売却価格(①)-A土地を買った価格(②)-A土地の売却に要した諸費用(③)-特別控除額(④)
なお、上記②のA土地を買った金額とは、被相続人がA土地を買った金額のことをいいます。なお、土地の場合は買った金額がそのまま取得額となり、建物の場合は買った金額から減価償却する必要があります。
また、買った金額とは取得費のことであり、取得費には、売買代金のほか、名義変更の際にかかった登記費用や測量費用、建物の取壊し費用、仲介手数料等を含めることができます。
この式によって計算した結果、売却益が出ない場合は、譲渡所得税はかかりません。
課税される場合、所有期間によって税率が変わる
計算式によって売却益(譲渡所得)がでた場合、売却益に対して譲渡所得税の税率を乗じます。譲渡所得税の税率は、売却した不動産を所有していた期間(5年を超えるか否か)によって変わります。
なお、相続した不動産の場合、被相続人の所有期間も合算することができます。例えば、被相続人が15年所有した段階で亡くなり、相続人が2年所有してから売却した場合は、所有期間が17年となります。
2-1.短期譲渡所得税
短期譲渡所得とは、不動産を譲渡(売却)した年の1月1日時点において、所有期間が5年以下の場合に適用されます。実際に売却した日ではなく、売却した年の1月1日時点が所有期間の基準日となりますので、注意が必要です。
短期譲渡所得税の金額は、次の式で求めることができます。
短期譲渡所得税=売却益(譲渡所得)×39.63%
*復興特別所得税0.63%を含みます
2-2.長期譲渡所得税
長期譲渡所得とは、不動産を譲渡(売却)した年の1月1日時点において、所有期間が5年を超える場合に適用されます。基準日の注意点は短期譲渡所得税と同様です。
長期譲渡所得税の金額は、次の式で求めることができます。
長期譲渡所得税=売却益(譲渡所得)×20.315%
*復興特別所得税0.315%を含みます
2-3.取得費用に関する資料がない場合
前述のとおり、売却益(譲渡所得)の有無は、売った値段から買った値段等を差し引いて、利益があるかどうかによって判断します。
しかし、相続した不動産の場合、被相続人が何十年も前に購入しているなど、買った値段(取得費)が分からないことがあります。
このような場合、売却価格の5%を取得費とすることができます。例えば、先の例でA土地を5000万円で売却した場合で、買った値段がわからないときは、5%の250万円を取得費として譲渡所得を算定することができます。
2-4.譲渡所得税についての特例
相続した不動産を売却した場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得の申告の際に特例を適用することで、節税となる場合があります。ここでは、主なものを紹介します。
2-4-1.マイホームを売った場合の特例
マイホームを売った場合、売却益(譲渡所得)から3000万円を控除することができます。所有期間の長短は要件とされていませんが、次の要件を満たす必要があります。
特例を受けるための要件
- 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 売った年の前年及び前々年にこの特例又はマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
- 売った年、その前年及び前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと
- 売った家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
- 売主と買主が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
*特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。
2-4-2.10年超所有している場合の特例
自分が住んでいたマイホームを売った場合で、売却した年の1月1日現在で、家屋と土地の所有期間がともに10年を超えるなど、一定の要件に当てはまるときは、長期譲渡所得税を通常の場合よりも低い税率で計算する軽減税率の特例を受けることができます。
2-4-3.3年10か月以内に相続財産を売却した場合の特例
この特例は、相続により取得した土地や建物などを、一定期間内に売却した場合に、相続税額のうちの一定金額を、売却益(譲渡所得)を算定する際の取得費に加算することができるというものです。
相続によって不動産を取得し、相続税が課税された場合で、当該不動産を相続開始後3年10か月以内に売却した場合は、この特例の適用を検討するとよいでしょう。
2-5.翌年の住民税・社会保険料にも注意
相続した不動産を売却した場合、売却した年度において所得が発生するため、翌年の住民税や健康保険料などの税額がその分高くなる可能性があります。
3.税金の申告と納税
相続した不動産を売却した場合で、①譲渡所得税が課税される場合や、②譲渡所得税が課税されるが特例を適用すれば譲渡所得税が課税されなくなる場合は、申告(税額が出る場合は納税も)が必要です。
譲渡所得税の申告は、確定申告と同時に行うことになるため、売却した年の翌年の2月16日から3月15日までの間に、管轄の税務署に対して行う必要があります。