遺産分割協議成立後、他の相続人が登記手続きに協力してくれない場合、以下の方法が考えられます。
①不動産の名義が被相続人の場合:所有権の確認訴訟又は遺産分割協議書の真否確認の訴えを提起し、その勝訴の確定判決によって相続登記を行う方法
②不動産の名義が共同相続人名義の場合:持分移転登記手続を求める訴えを提起し、勝訴の確定判決によって遺産分割を原因とする持分移転登記を行う方法
目次
1.遺産分割協議に基づく相続登記に必要な書類
遺産分割協議が成立し、単独で相続することになった相続人は、単独で不動産の名義を変更する登記申請をすることができます(不動産登記法63条2項)。
しかし、相続登記を申請する際に、法務局に対し、相続を証する書面として、戸籍や遺産分割協議書、他の相続人の印鑑証明書を提出する必要があります。
そのため、遺産分割協議が成立したものの、遺産分割協議書を作成していない場合や、遺産分割協議書は作成したものの他の相続人が印鑑証明書の提出を拒む場合は、事実上相続登記申請を行うことができなくなってしまいます。
では、そのような場合、どのように相続登記を申請すればよいでしょうか。不動産の名義が被相続人名義のままなのか、法定相続人の共有名義に変更済であるのかによって方法が異なりますので、以下で順番に解説します。
2.不動産の名義が被相続人のままである場合
前述のとおり、遺産分割協議に基づいて相続登記を申請するには、遺産分割協議書及び他の相続人全員の印鑑証明書を法務局に提出する必要があります。
2-1.遺産分割協議が成立したものの、遺産分割協議書がない場合
ここでいう遺産分割協議書がない場合には、そもそも遺産分割協議書の作成に協力が得られない場合と、遺産分割協議書は作成したものの、相続登記に協力しない相続人が原本を持っている場合、の2通りが考えられます。
このような場合には、協力しない相続人を相手方として、所有権の確認訴訟を提起し、その勝訴の確定判決を、相続を証する書面の一部として法務局に提出することで、単独で相続登記申請を行うことができます。
2-2.遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書はあるものの、印鑑証明書がない場合
これは遺産分割協議書に署名捺印(実印)したものの、後から印鑑証明書の提出を拒否されたようなケースです。
このような場合、遺産分割協議書の原本が手元にあるのであれば、手続に協力しない相続人を相手に、遺産分割協議書の真否確認の訴えを提起し、その勝訴の確定判決を、相続を証する書面の一部として法務局に提出することで、単独で相続登記申請を行うことが可能です(昭和55年11月20日民三6726号民事局第三課長回答)。
なお、不動産の名義が被相続人のままである場合、遺産分割で単独相続した相続人は、前述のとおり単独で相続登記申請ができることから、手続に協力しない相続人を相手に、「相続を原因として所有権移転登記手続きをせよ。」との確定判決を得たとしても、その判決によって相続登記をすることはできません(昭和53年3月15日民三1524号法務省民事局第三課長依命回答)。これは、他の相続人は相続による登記申請人ではないため、確定判決によって登記申請意思を擬制しても意味がないためです。
3.不動産の名義が法定相続人の共有名義に変更済の場合
3-1.保存行為としての共同相続登記
遺産分割協議が成立していなくても、相続人の一人は、保存行為として、相続人全員の法定相続割合による相続登記を申請することが可能です。この際、遺産分割協議書や印鑑証明書の提出は不要です。
例えば、相続人がABCの3名いる場合、Aは単独で、保存行為として、ABC全員分の相続登記を申請することができます。この場合の持分は、あくまで法定相続割合で行う必要がありますが、申請人とならなかった相続人に対して、登記識別情報(かつての権利書)が発行されないというデメリットがあります。
3-2.他の相続人の協力が得られない場合
不動産の名義が法定相続人の共有名義に変更されている場合、遺産分割協議成立後に行う登記は、遺産分割を登記原因とする持分移転登記となります。この登記は、遺産分割協議によって法定相続分よりも相続割合が増えた相続人を登記権利者、相続割合が減った(あるいはゼロとなった)相続人を登記義務者、遺産分割協議成立日を原因日付として、共同申請の方式によって行います。
この場合には、遺産分割協議書の真否確認又は所有権確認訴訟ではなく、手続に協力しない相手方(登記義務者)に対して「遺産分割を原因とする~登記手続をせよ」との訴えを提起し、勝訴の確定判決を得た上で、単独で持分移転登記手続をすることになります。
なお、相手方(登記義務者)が複数いる場合でも、相続登記手続に協力が得られる相続人は、裁判の相手方(被告)とする必要はありません。例えば、先の例で登記権利者がA、登記義務者がBCの場合に、Bの協力は得られるもののCの協力が得られない場合、Cのみを相手方として所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得れば、AとBが申請人となり(Cは判決により意思擬制されるため、申請人となる必要はありません)、持分移転登記を行うことになります。
4.まとめ
遺産分割協議は、相続人全員が合意すれば、口頭での合意であっても有効に成立します。
しかし、不動産の相続登記や預貯金の解約等を行う場合は、手続上、遺産分割協議書等が必要となります。また、後日相続人間で合意内容について争いが生じる可能性、相続登記などの手続に協力が得られなくなる可能性もあります。
また、遺産分割による不動産を取得した者は、相続登記をしなければ、遺産分割後に権利を取得した第三者に、法定相続分を超える権利の取得を主張することはできません(昭和46年1月26日最高裁判決)。
したがって、遺産分割協議が成立したら速やかに、遺産分割協議書の作成や印鑑証明書の提出を受けることが望ましいといえます。
参考条文
不動産登記法
(判決による登記等)
第六十三条 第六十条、第六十五条又は第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
2 相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。